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ブルックリンは2015年公開、アカデミー賞で作品賞・主演女優賞・脚色賞の3部門にノミネートされた作品です。
ニューヨーク州ブルックリンへと仕事を求めて渡米したアイルランドからの移民女性の物語。
主人公と共通する経験がなくても、多くの共感を呼び起こすのは優れた演技や作品であるからというだけではなさそうです。
主人公の心情を如実に表しているさまざまな色の衣装の着こなしから今作を紐解いてまいりましょう。
自分の望む人生を手に入れるための試練
主人公エイリッシュのアイルランドでの生活は、努力や才能とは関係がなく、家庭環境や生まれが大きく影響する閉ざされたもの。
鑑賞後に、どこか日本の「就職時の雰囲気」や「田舎の性質」を感じたのは私だけではないでしょう。
国も時代も違うのに共感を生み出し、物事の本質を切り取った脚本がアカデミー賞の「脚色賞」部門にノミネートされたことは納得です。
濃い緑色のロングコート
映画の冒頭、意地悪な商店主ケリーの店で働くエイリッシュは、濃い緑色のコートを羽織り、教会でのミサを終え、仕事につきます。
エイリッシュがアメリカでの仕事と住まいを神父に見つけてもらい、ブルックリンへ船旅に出る際にもこのロングコートを着ていました。
この「濃い緑色のロングコート」の着こなしから、エイリッシュの心情をうかがい知ることが出来ます。
緑色が表すエイリッシュの心情
色彩心理学では、緑色はネガティブ面で「未熟さ」や「弱々しさ」のイメージを持った色といわれています。
また、日常である、アイルランドでは羽織る程度に着ていたコートが、船旅では首元までしっかりとダブルボタンを留めています。
まるで自分を守るための鎧かの様に。
ここにも、エイリッシュのこれからの人生や移民としての心細さがあらわれています。
緑色の示すもう一つの意味
それぞれの国にはナショナル・カラーと呼ばれる国のイメージを体現する色があります。つまり国のイメージカラーです。
アイルランドのナショナル・カラーは「緑」であり、この後もエイリッシュは物語の重要なシーンで緑色の服を選んで着ています。
挑戦はいつだって安定した日々を思い出させる
エイリッシュのブルックリンでの新しい生活は、これまでの望んではいないものの安定していた日々を思い出させるには十分なものです。
慣れない寮での生活では全員が初めて出会った人であるし、新しい勤め先の店は「自然で友達の様な振る舞い」を求められる。
一人で昼食をとる時にも、お国訛りが出て茶化されることで、常に気を張った状態が続いてしまうのです。
薄いピンクのシャツと白のカーディガン
色彩心理学では、ピンクはネガティブな捉え方では「幼稚さ」や「不安定」、「弱さ」を想起させる色といわれています。
エイリッシュはまだ新しい生活に慣れておらず、精神的に不安定であり、自立した大人としての立ち居振る舞いも出来ずにいる状態です。
また、白は「孤独」や「自閉」といったイメージを持った色でもあり、ピンクと合わせて着ることで、まさに心情を表しています。
異国での生活に慣れようと、懸命に受け入れられる努力をしている心境をファッション面からも演出している制作陣の緻密さに脱帽です。
人は自信をつけると表情も服装も変わる
さまざまな出来事を通して、少しずつ成長していく様子は、彼女の選ぶファッションからも感じ取れます。
単色の地味な色合いの服から、明るい色の柄物の服を着るようになり、表情は豊かになり、うつむくことも少なくなっていきます。
赤い服を着るようになったエイリッシュ
アメリカでの生活に慣れはじめ、アイルランド人が集まるダンスパーティーに彼女が着ていったのは「赤地に白のドット柄のドレス」。
赤は「積極性」や「生命力」を象徴する色であり、仕事への慣れや簿記の勉強を始めたことで、自信を持ちつつあることをうかがわせます。
特にダンスパーティーのあとに、白と赤のボーダーのシャツを着ている彼女の表情には自信が感じられます。