自分に好意を持っている男性の存在や、彼の親との食事に誘われるなど、彼女の自尊心はアメリカに来てから最も満たされている状態です。
白のポジティブなイメージは「幸福」「純粋」「勝利」。
赤と白はアメリカのナショナルカラーでもあり、赤と白のボーダーはアメリカで自信を持った彼女の心情とも重なり合います。
明るい黄色のワンピースと白の薄手のカーディガン
お世話になっている神父さんに、簿記の資格試験に合格し、彼氏ができた報告をするときに着ていたのは初夏らしい爽やかな服でした。
明るい黄色のワンピースは、これまでの丸みのあるかわいらしいデザインとは違い、直線で構成されたクールな印象。
クール過ぎないよう、丸みのある白のカーディガンでバランスを取り、アメリカでの生活に自信を得たことの演出にもなっています。
黄色は「希望」「若さ」、白は「幸福」「勝利」をイメージさせる色であり、彼女の努力による成功を印象付けてくれています。
変わるものと変わらないもの
姉の死をきっかけに、いったんアイルランドへ帰郷しますが、そこには故郷に対する失望が待っていました。
初めてアメリカへ向かう船の中で親切にしてくれた女性の「地獄ね 二度とごめんよ」というセリフは伏線になっていたようです。
アメリカという勢いのある国で、さまざまな誘惑にも負けず努力を続けたことで自分の望む人生を掴もうとしているエイリッシュ。
能力だけでは道の開けない閉鎖的な雰囲気を持った祖国で暮らす人々。
同じ時代を生きながらも、進歩の速さがまるで違う環境で生き、再び出会った人々にすれ違いが生じてしまうのは当然です。
田舎から都会へ進学や就職をした経験がある人は、時間を経て田舎に帰ったときにそれを感じたことがあるのではないでしょうか。
古今東西や文化を問わず、人の営みの中では起こりうることなのでしょう。
エメラルドグリーンとスカイブルーのカーディガン
アイルランドに帰郷し、友人カップルと海水浴へ出かけるときに着ていた服は彼女の心情を反映しています。
教養もあり魅力的な男性とアイルランドで良い関係になりそうになりながらも、アメリカには結婚した男性がいる。
そんな彼女の揺れる心情をほぼ同じ衣装で表現しながらも、別の印象を繊細に演出する技術に目を奪われます。
ニック・ホーンビィの脚本で特徴的な、同じようなシーンを用いながら成長や葛藤、変化を演出する…まさに真骨頂といえます。
アメリカでトニーと海に行ったときはエメラルドグリーンのカーディガンに白いシャツに花柄のスカート。
アイルランドでジムと海に行ったときはスカイブルーのカーディガンに白いシャツに花柄のスカート。
ほぼ同じ衣装で、カーディガンの色だけが微妙に違います。
緑は「安らぎ」「自然」といった印象を持つ色で、トニーといるときのエイリッシュの心情を感じ取れます。
青は「消極的」「憂鬱」といった印象を持つ色で、ジムとの関係の後ろめたさを表した色になっています。
ここまで衣装や小物にこだわった制作陣の美意識の高さをみると、アカデミー賞(作品賞)にノミネートされるのも納得です。
白のシャツと白のカーディガンの重ね着
どこまでも意地悪な商店主ケリーとの対峙のシーンは、田舎の閉鎖的で粘着質な雰囲気をこれでもかと感じさせます。
アメリカでイタリア人男性と結婚したことと、アイルランドでジムと距離を縮めるエイリッシュを問い詰めるミス・ケリー。