この心臓さえなければ、目の前の2人の争いは生まれなかったのです。
守るもののために
ジャックを本当に殴り殺してしまったら、クリスティーナは殺人者になってしまいます。
それだけはどうしても避けたかったのです。それは彼女を愛していたからという理由だけではありません。
ただでさえ夫と2人の娘を失って絶望の淵にいる彼女に、これ以上の苦しみを味わわせてはならないと思ったのでしょう。
どうせ移植した心臓は適合していないのだから、遅かれ早かれ生き絶える運命。
ならばクリスティーナのために自分の命を使おうと決意したのです。
生きながらにして死んでいた3人
3人とも幸せな日常や希望を打ち砕かれて、心が死んでしまった瞬間がありました。
それはすべてあの交通事故が原因でした。
心臓不適合で希望を失ったポール
移植した心臓が適合しなかったポールは、再び心臓移植する気にはなれませんでした。
生きるために絶対に必要な心臓移植を拒んだ時点で、ポールは生きるという選択肢を放棄したことになります。
この時ポールの体はまだ生きてはいましたが、心はもはや死んでいる状態だったのです。
家族全員を失ったクリスティーナ
クリスティーナの心は、物語の前半ですでに死んでいました。それは大切な家族が交通事故で全員死亡したと知らされた時。
彼女は抜け殻になってしまいました。彼女は今までの彼女でいられるはずがなかったのです。
狂ったようにジャックを殴り続けたクリスティーナでしたが、ポールの発砲で現実に引き戻されました。
罪の意識に耐えきれなくなったジャック
交通事故を起こして刑務所に入った時期に、ジャックは自殺を図りました。死にたいくらい懺悔したということでしょう。
しかし、彼の心が本当に死んだのはこの時ではありません。
それは、クリスティーナに殴られている時でした。彼は本気で殺されてもいい、いやむしろ殺して欲しいと願ったのです。
彼の心はすでに罪に耐えられなくなっていました。クリスティーナに殺されるのが最善の方法だと考えていたのでしょう。
そんな時、クリスティーナと同じように、ポールの発砲によって現実に引き戻されました。
怒りをぶつけることで生きていた3人
3人とも誰かに怒りをぶつけることでしか精神を保つことができなくなっていました。
ポールはジャックに怒りをぶつけました。
ジャックが交通事故さえ起こさなければ、クリスティーナが壊れてしまうことはなかったのですから。
クリスティーナもジャックに怒りをぶつけました。
ジャックさえいなければ、彼女の幸せな家庭が消え去ることもなかったのですから。
ジャックは神様に怒りをぶつけました。