それらの要素を考えると、チャンスがそのまま大統領になったとしても不思議ではありません。
庭師から大統領になる、その飛躍のほどはサクセスストーリーと呼ぶにふさわしいでしょう。
人々の欲望が交錯する資本主義社会
一方で『チャンス』には風刺映画の側面もあると指摘されています。
純粋無垢な心をもったチャンスの存在自体が、人の欲望がうずまく資本主義社会への風刺といわれます。
また黒人の元使用人が、チャンスをテレビで観て、白人なら能力がなくとも成功する、という発言をしています。
これは当時まだアメリカに人種差別が強く残っていたことに対する風刺のシーンではないかといわれています。
『チャンス』にはもう一つエンディングがあった!
『チャンス』はその根強い人気から2009年に30周年記念を祝して、ブルーレイ版が発売されました。
そのブルーレイ版に劇場版とは異なったエンディングが収録されていることをご存じでしょうか。
劇場版のエンディングは、チャンスが水面を歩くシーンになります。
しかし、ブルーレイ版のエンディングは、チャンスとエヴァが結ばれる純愛映画のような結末になっています。
チャンスが水面を歩く、映画の今後を想像させるエンディング。
一方は、純愛映画のようなハッピーエンドを無事に迎えるエンディング。
どちらが良いかはファンの間でも意見が分かれています。
しかし、ベンを演じたメルヴィン・ダグラスの孫イリーナ・ダグラスのインタビューによると、ブルーレイ版のエンディングの方が先に制作されたそうです。
『チャンス』豆知識
原作はあの哲学書を下敷きに作られた
チャンスの原作は、19世紀のドイツの哲学家フリードリヒ・ニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき』を下敷きに作られました。
『ツァラトゥストラはかく語りき』は、主人公が神が死んだことを悟り、人々に神の代わりとなる思想を広める物語です。
人々を幸せにする思想を広めるために山を下りたツァラトゥストラ。
そこから、家を出て人々を幸せにするチャンスというキャラクターが作られたのかもしれません。
誰もが聞き覚えのある、あの音楽が流れていた!
チャンスが家をでるシーンで流れた音楽を聴いて、聴き覚えがあると感じた人が多いのではないのでしょうか。
その楽曲は、ドイツの音楽家リヒャルト・シュトラウスによる『ツァラトゥストラはかく語りき』をアレンジしたものです。
この楽曲もニーチェの著書からインスピレーションを受け、作曲されました。
この楽曲は『2001年宇宙の旅』(1968年)で使用され一躍有名にりました。
本作は心が温まるコメディ映画です。
一方で、サクセスストーリーや風刺映画の側面もあります。
本作に多様な側面があるのは、哲学書を下敷きにした確かな物語があるからといえるでしょう。
本作は観れば観るほど、新たな魅力を見つけられる素晴らしい作品なのです。