しかし彼はレティシアに真実を告げなかった。レティシアを失いたくないという思いがあったのでしょう。
おそらくハンクは、ローレンスの処刑のことをレティシアに言い出せずに悩んでいたはずです。
レティシアは、自分を傷つけまいと悩む不器用なハンクを愛おしいと感じたのかしれません。
ひとりになるという寂しい微笑み
上記とは全く反対の意見もあるようです。
それはレティシアが、自分へ向けられたハンクの愛は同情や哀れみだ、と感じたという説です。
夫を処刑したハンクは彼女に対して哀れみの気持ちを持っており、それを愛と勘違いしている。
レティシアはそう思い、優しくハンクから離れていく。
最後のひと時を、愛の代用品であるチョコレートアイスを食べて過ごす。
その時見せたレティシアの微笑みは、死者を弔う宴は終わったという寂しい微笑みだったのかもしれません。
レティシアの感じた差別
「チョコレート」は南部に残る黒人差別を浮き彫りにした作品です。
レティシアはそんな差別と向き合って生きていきますが、彼女が感じていた差別はどのようなものだったのでしょう。
南部に残る黒人差別
アメリカには現在でも黒人差別はあり、特に南部にはその影響が色濃く残っています。
そう遠くはない過去に、黒人は白人と同じ空間で生活することが許されていませんでした。
学校や公共の水飲み場、プールや居住地区もすべて白人と区別されており、バスも一番後ろは黒人が乗るスペースでした。
「NEGRO」という差別の言葉があちこちで使用され、劇中にも登場する死刑囚はそのほとんどが黒人でした。
当時は例え誤審であっても黒人なら死刑されていいという、白人の思い上がり的な差別が存在していたのです。
ハンクの父親バックとの出会い
レティシアは思いがけず、ハンクの父バックと対面してしまいます。
この時のハル・ベリーの演技は見事なもので、差別に対しての想いが演技に集結されています。
レティシアがバックと対面した時、自分(黒人)を受け入れてくれるのだろうか、という恐怖と少しの期待がうかがえます。
愛した男の父親なら自分を受け入れてくれるのではないかという期待も大きかったはずです。
しかし父親バックは強烈に彼女を差別します。
期待を踏みにじられたショックとやはり差別するのかという思いが、悲しみを通り越して彼女の怒りへ火をつけたのでしょう。
差別を嘆かず向き合っている姿
レティシアは差別に対してあきらめにも似た思いを持っています。
アメリカに住む黒人の多くが持っている感情なのかもしれません。
あきらめているものの面と向かって差別されると、我慢していた感情が爆発してしまう。
レティシアは差別に対して常に怒りを抱えていたのでしょう。
レティシアは子供差別にも直面していた
「チョコレート」には黒人差別や死刑など、社会的な問題が多く秘められています。
黒人の差別に苦労するレティシアですが、自分が差別する側の人間でもありました。