原題はアイルランドの詩人ウィリアム・バトラー・イェイツの詩「ビサンティンへの船出(原題Sailing to Byzantium)」が引用元です。
この詩篇は彼がノーベル文学賞を受賞後に発刊した、後期の傑作といわれる「塔(原題The Tower)」に収録されていました。
この詩はビサンティンへの精神的な旅の暗喩として描かれました。
人間にとって老いるという事、そして永遠の生命について考察、追求した内容になっています。
“No Country For Old Men”とは、ここは老人の住める国ではない。劇中のテキサス州のことを指しているのかもしれません。
もしくは、アメリカだけでなくそんな場所は既に存在しないのでしょうか?
2020年代を生きる者が常に抱える漠然とした不安に触れられたような気分になります。
ビサンティンとは?
4世紀末から、15世紀中盤まで栄えた東ローマ帝国の呼称です。
そこで栄えた文化は、古代ギリシャ・ヘレニズム・古代ローマの既存文化にキリスト教、ベルシャやイスラムの影響が加わったものでした。
基本的に古代ギリシャの文化がベースとなっています。(例えばホメロスの詩篇など)
帝国滅亡後はイタリア等に伝播し、ルネッサンスに多大な影響を与えました。
それ故現代には古代ギリシャ・ローマの古典的作品が多数残されているのです。
まとめ
現代社会の暗部を強烈に晒した傑作
ベルは引退直後に見た2つ目の夢の中で、生涯の仕事を引退し肩の荷を降ろし、父親が先に向かった場所に向かって旅を始めました。
その場所は今までベルが働いていた保安官の仕事ではありませんでした。
ベルが選んだのは、血と暴力の連鎖は、個人が判断して断ち切るほか、全面的な解決策は今のところない、という結論でした。
そのテーマを提示した直後、本作は唐突に終わります。
余計なサウンドトラックは一切排除され、ドキュメンタリーを観ているように、一瞬たりとも目が離せなくなる仕上がりです。
ストーリーの結論を明示せず、判断は受け手それぞれに委ねるところは、実にコーエン兄弟らしいエンディングといえます。
コーエン兄弟の真骨頂の一本!と声を大にして断言したいです。