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第53回カンヌ国際映画祭では最高賞であるパルム・ドールを受賞し、主演のビョークは主演女優賞を獲得している【ダンサー・イン・ザ・ダーク】。
救われない悲劇のミュージカル映画で、主役・セルマはどうすればよかったのでしょうか。
なぜ障害を持つ彼女が死ぬことになってしまったのか、真実はどこにあるのかを考察していきます。
過去を見てきたセルマに未来は見えなかった
あらゆるものを失っていき、残せるのは息子だけだった
月日が経つにつれて、セルマは多くのものを失っていきました。
- 視力
- 仕事
- ミュージカル
- 貯めてきたお金
このようにセルマが生きていく上で必要なものを先天性の病気の為に失っていくのです。
目が見えなくなってきたことで、仕事や踊ることも難しくなります。しかし、彼女には息子の存在だけが何よりも大切でした。
生きていけなくなろうと、息子が自分と同じ末路を辿らなくて済むように手術をさせます。
遺伝性の病気なので自分の子どもにも遺伝することが分かっていても赤子を抱きたいという想いには勝てませんでした。
自分のエゴで生んでしまった息子には、せめて目が見える幸せな人生を歩んでほしかったのでしょう。
物事に対する視野も狭まっていった
どんどんと見える世界が暗闇へと近づいてきた頃、視覚と一緒に物事に対する視野も狭まっていきます。
教養がなく、チェコからの移民であるセルマはどこか他人に対して壁を作っていたのかもしれません。
目が見えなくなっていることさえほんの一部の人にしか伝えず、息子にさえ言いません。
自分に対して好意を抱いてくれているジェフにも言えなかったのです。
目の病気であることを知っていたキャシーにも遺伝性であることは伝えておらず、稼いだお金の使い道も嘘を話していました。
セルマは少し内気ですが、真面目でまっすぐな性格をしており、周囲もセルマの人柄に惹かれて親しくしていたのでしょう。
しかし、セルマ自身は何でも相談できる友人はいなかったのです。
目の病気のせいで、ふさぎ込んでしまっている部分があったのかもしれません。
辛いことさえ喜劇にしてしまう妄想のミュージカル
視覚の代わりに研ぎ澄まされた聴覚
幼いころからミュージカルが好きで、自身も『サウンド・オブ・ミュージック』の舞台の稽古に励み舞台を楽しみにしていました。
この舞台でセルマは主役・マリア役に抜擢されており、演技にもアドリブでタップダンスを加えたりして楽しんでいます。
舞台公演よりも早く目が見えなくなり、殺人犯になってしまったことでこの役を演じることは出来ませんでした。
しかし、彼女が苦境に立たされるといつも空想の中のミュージカルが始まるのです。
視覚を失っていく代わりに研ぎ澄まされた聴覚がどんな音さえもリズムとして聞き入れました。
工場の中の機械が動く音も、列車が通り過ぎる時の音も、足音さえも彼女の歌となりダンスへと変わっていくのです。
心の声が投影されている妄想世界
このセルマの空想の中のミュージカルはいつだって辛い出来事の最中や直後に起こります。
彼女の心の叫びが歌となり頭の中で悲劇を喜劇に変換していました。