では、選ばれなかった空はどうなのでしょう。
劇中には描かれていませんが、原作では魚たちに食べられていきます。
空と同じように、この誕生祭で選ばれなかった者たちは海の栄養になり、次の誕生祭に再び生み出されるのかもしれません。
エンドロール後に注目
琉花の母親が出産し、琉花がへその緒を切ります。
命を絶つ感触がした
引用:海獣の子供/配給会社:東宝映像事業部
へその緒を切った琉花のセリフですが、ここに生と死の交わりをみることが出来るのではないでしょうか。
子宮から出ることは「死」と意味します。
子宮は海中を意味していますが、海から陸へ出るということは誕生であると共に海獣としての死を意味します。
死ぬということは生まれることであり、生まれるというのは死ぬことなのです。
人間には計り知れない自然の大いなる力を感じます。
椅子の上のハイビスカスは空の転生
エンドロールに登場する椅子にはハイビスカスが置いてありました。
先祖の霊が帰ってくる日には海岸に椅子を置いておく
先祖たちは帰ってきた証拠に、その椅子に何かを置いていく
引用:海獣の子供/出版社:小学館
原作で語られていたエピソードです。
このシーンは映画版でカットされていたために、椅子に置かれたハイビスカスの意味を理解するのは少々困難です。
しかし原作のセリフからひも解いていくと、このハイビスカスは空が生まれかわったことを示唆しているように思えます。
海の生き物としての死を迎えた空(海の幽霊)が置いた花と考えられるのです。
コミュニケーションが隠れたテーマ
「海獣の子供」は生命誕生を描いた壮大な物語です。
しかし映画版では、より琉花に焦点を当て描かれていました。
彼女はコミュニケーションがうまく取れず、周囲から浮いてしまう存在ですが、海や空との出会いによって生まれ変わります。
母親との関係もしっくりこない彼女でしたが、徐々に関係を回復していきました。
細かな描写ですが、琉花の成長に注目して観るというのも「海獣の子供」の楽しみ方のひとつです。
答えはない感覚で楽しむ映画
「海獣の子供」は抽象的な描写の多い映画です。
意味を細かく考察していくと、何十通りもの解釈が浮かび上がります。
あえて抽象的に描いたのは、命は神秘的な物であり海は感じるものだということでしょうか。
私達は皆母親の子宮の中で育ち、いわば海から生まれた存在です。
この映画は考え込まず自分の持つ感性で楽しむものなのかもしれません。