そして最終的に、世界に自分の居場所を見つけたすずの言葉が以下のものです。
この世界の片隅に、私を見つけてくれて、ありがとう
引用:この世界の(さらにいくつもの)片隅に/配給:東京テアトル
タイトルも含まれているこの印象的なセリフ。
では、すずは一体どのように自らの居場所を見つけたのでしょうか。
すずの居場所とは
本作を通して、すずは自分の居場所が見いだせずに苦しみました。
嫁ぎ先の北條家、リンとの結婚を諦めた周作、戦争で崩れていく日本、大好きな絵を描く右手を失ったこと。
すずは夫から必要とされていなかったと感じ、自分が愛するものを失っていく世界に居場所が見つけられなかったのです。
しかし北條家からかけられた言葉、周作が人々の雑踏から見つけてくれたことで、すずは居場所を見つけました。
そして周作をはじめとした北條家の人々と、ともに生きていくことで一人の女性として自立したのです。
すずが北條家に居場所を見つけられたことにはヨーコも重要な役割を果たしました。
ヨーコを養子に迎えたことで、すずと北條家にあった溝が埋まったのです。
当時は、家を存続させるために女性は子どもを産むもの、という認識が強い時代でした。
しかしすずは子を授かることがなく、北條家に後ろめたい気持ちを抱えていましたが、ヨーコがそれを解消したのです。
この物語は戦争の物語であり、そして一人の女性が葛藤しながらも自立していく物語でもあるといえるでしょう。
時代をリアルに描いた作品
当時の結婚観
本作は、当時の日本を非常に丁寧に描いていることが印象的です。
その中でも当時の結婚観はとてもリアルに描かれています。
戦前は、現代のような恋愛結婚は珍しく、すずと周作のような家族間での取り決めによる結婚が一般的でした。
つまり、お互いをよく知らないまま結婚生活が始まるのです。
本作の前半では、すずと周作はどこかお互い本音をいえない関係でした。
そのため、すずがリンと周作の関係を知ったときも、周作に何も言えず一人で抱えて苦しんだのです。
本作で追加された、リンと周作の物語にも当時の時代背景が強く映し出されています。
周作は軍の関係の仕事に就いており、当時は非常に評判の良い職業とされていました。
一方のリンは水商売をしていたため、世間からの評判を気にした北條家が二人の関係を認めなかったのです。
すずと水原哲、周作と白木リン
すずには水原哲、周作には白木リンと好きな人がいました。
しかし、そういった自分の気持ちと折り合いをつけて共に歩んでいく二人。
それは当時の価値観でもあり戦争の時代でもあったので、どんな境遇も受け入れざるを得ないという一種の諦観だったのです。
本作のタイトルの意味は
本作のタイトルは『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』です。
本作は前作からいくつものシーンを追加したことで、前作より多くの登場人物が描かれています。
つまり、さらにいくつもの人の人生が描かれているのです。
また新たに登場した人物たちが、すずと周作と関係していくことで、すずや周作の前作と異なる面を見ることもできます。
戦争の悲惨さだけではなく、人々の日々の暮らしも、多くの人間の人生も描いた本作。