排泄物や吐瀉物、血や汗、二日酔いの吐き気、そして薬物のもたらす快感……。それらが必要以上にリアルに感じられます。
この映画が喚起する強烈な身体感覚は、ぬるい現実に倦んだ若者たちに刺激を与えたといえるでしょう。
薬物のリアル
レントンはスコットランドで一番汚いトイレで排泄し、座薬のアヘンを探すために便器に身体を突っ込みます。
開始早々、観客は何がなんだかわからなくなります。
レントンは禁ヤクをすると宣言した矢先に薬を手に入れ、それを尻に入れ、それをトイレに落とし、そこに飛び込む。
こうした目が回るような展開の速さと支離滅裂さに戸惑いますが、これが薬物中毒者のリアルなのでしょう。
中毒者の衝動
レントンの無軌道さは、薬を手に入れるためなら何でもする中毒者のそれを表しているのです。
レントンは便器から落ちた先で薬を見つけます。澄んだ水、石が転がる海底、そして光る大きな座薬は明らかに現実ではありません。
便器も人が通れるほどの大きさではないので、レントンがトイレに落ちることは現実では不可能なのです。
現実と幻覚の境界
しかし現実ではないにも関わらず、それが幻覚であると説明する描写は特になく、レントンはびしょ濡れで家に帰りました。
水に飛び込んだかのように頭から足の先までびしょ濡れなので、レントンがトイレに落ちたのが本当かそうでないかわからなくなります。
このシーンを見るとわかるように、この映画では現実と幻覚の区別が限りなく曖昧なのです。
薬物中毒者にとって、現実と幻覚は地続きであり、見分けがつかないものであることがよくわかります。
ファッションと音楽
1996年の若者はこの映画のファッションや音楽にも熱狂しました。
気取らないファッション
レントンは身体にぴったりとフィットするTシャツとボトムを着ています。
この映画に出た頃、まだ無名だったユアン・マクレガーは役作りのために10キロ以上体重を落としたそうです。
タイトなシルエットのファッションが、退廃した若者の生活をより刹那的かつ魅力的にしていました。
イギリスの音楽
また、冒頭を飾るイギー・ポップの歌を筆頭に、イギリスの若者向けの音楽が全編通して使われています。
映画で扱われたのは若者向けブリット・ポップだけではありません。
至るところにビートルズへのリスペクトが感じられるシーンがありました。
たまり場になっている部屋の壁には「Mother Superior’s」と書かれていますが、これはビートルズの曲からきています。
他にも薬の取引に向かう仲間たちが横断歩道を横切るシーンはアルバム「アビー・ロード」のジャケットを連想させます。
あのオアシスにも楽曲提供のオファーがあったそうですが、ノエル・ギャラガーがタイトルから「鉄道マニア」の映画だと勘違いしたため実現しませんでした。
しかしリアム・ギャラガーは『トレインスポッティング』がお気に入りの映画だと公言しています。
オアシスは映画のプレミアパーティに出席するなどこの映画に対して好意を示しています。
タイトルの意味
先ほどノエル・ギャラガーが映画のタイトルの意味を勘違いして楽曲提供を断ったと書きました。