父親の保釈金を得ようと、ムーン劇場の事務所に忍び入ったときに、ジョニーはターニングポイントを迎えます。
ムーンが自分の才能を認めていることを知り、過ちを犯す寸前で「本当の自分」を取り戻すのです。
ジョニーが舞台で歌うと観衆の感情を揺り動かし、総立ちのコールが起き、まさに「生まれながらの歌手」を体現しました。
マイク(ネズミの男性)の歌う理由
ストリートミュージシャンではあるが音楽院を出ており、演奏も歌も実力は折り紙付きのマイク。
往年のミュージシャンを思わせる豪快な生き方のため、現代に生きる我々はなかなか感情移入できないキャラクターではないでしょうか。
彼が最後に歌う曲はフランク・シナトラの「My Way」。
マイクのキャラクターを表現するのに、ぴったりな選曲でした。
マイクが歌う理由は常に「自己顕示欲」のためであり、我が道を行くキャラクターでした。
ロジータ(ブタの主婦)の歌う理由
他のキャラクターとはモチベーションの違いが感じられるロジータ。
家事や子育てに忙殺される様子や、優秀な能力を持ちながら活かし所のない姿に、日本の典型的な主婦のイメージが重なります。
普段自分のしている家事や旦那との会話が、ロジータの作った装置で置きかえられてしまうシーンは興味深いものがあります。
表面的にはロジータの高い能力に舌を巻くシーンですが、少し考えると寂しさを感じざるを得ません。
それは、彼女の普段の仕事は極めて機械的であり、「自分でなくても」と思わせるに十分なものでした。
ここから考えられるロジータの歌う理由は「自分だからこそできること」であり、当初のダンスへの拒否感はその影響だったのでしょう。
ロジータはダンスに躓き出場を辞退しようとしますが、自分の中の「熱さ」に気づきブレイクスルーを果たします。
アッシュの曲からみえてくるもの
元彼には「無理」と言われていたオリジナル曲作りでしたが、最高の曲を作り上げました。
タイトルは「set it all free」。意訳すれば、「自分を解き放て」といったところでしょうか。
本当の自分を解き放った後のアッシュの魅力は、それまでのスカしてるだけの印象とは段違いのものでした。
彼氏のためと思ってサブボーカルをしたり、自分の部屋に住まわせたり、身の回りの世話をするなど献身的だったアッシュ。
しかし、彼は気持ちに応えるどころか浮気をする始末。
キャラクターが示すとおりに「ヤマアラシのジレンマ」だったのでしょう。
映画の中では悪役の彼は、アッシュの実力に気づき、人知れず傷つき、無意識に距離をとろうとしていたのかもしれません。
だとしても、器の小ささは否めませんが…。
アッシュの曲は、誰かのためを思って自分を作りこむよりも、素直に自分の心に従う事の大切さを教えてくれたのです。
どん底から這い上がるためには何が必要なのか
人生には思わぬところに落とし穴があるといわれます。
どん底に落ちた後に這い上がるには何が必要なのか劇中から考察してみましょう。
本当に大切なものまでは失っていなかった
劇中で何度も印象的に使われた言葉があります。
「恐怖に負けて、夢をあきらめるな」
引用:SING/シング/配給会社:ユニバーサル・ピクチャーズ
ムーンが父親から語り掛けられていたとされる言葉です。
私たちも何かに挑戦しようとするときに恐怖に負けそうになり、逡巡することがあります。
そんな時に、この言葉は力強いメッセージとなります。
ムーンは劇場が崩壊するまでは、借金で首が回らなくとも根拠のない自信を持ち、底抜けの明るさを持っていました。
しかしどん底に落ちたときに、初めて父親の言葉と本当の意味で向き合うのです。