銀メダルは挫折の象徴ともいえる物ですが、そのメダルと一緒に死ぬことを彼は選びました。
なぜなら結果は2位だったけれどヴィンセントと同じ様に努力してきた自分を受け入れ、許すことができたのですから。
死からの再生
焼却炉を自殺の舞台にしたのには、自分の存在を完全に消す以外の理由があった可能性があります。
その身を炎の中に投じた後、生き返るといわれている伝説上の生き物がいます。それがフェニックス(不死鳥)です。
フェニックスは自らの寿命を迎えると、炎に飛び込んで死にます。そして再び蘇ることで永遠の時を生きるのです。
この伝説を踏まえると、ジェロームは新しい命として誕生する為に焼却炉に入ったと考えることもできます。
この自殺は悲観からの行動ではなく、むしろ悔いのない人生の前向きな決断だったのではないでしょうか。
ヴィンセントと出会って本当の人生の意味を知った彼は、今度は遺伝子に左右されない自分の新しい人生を切り拓くはずです。
ヴィンセントは幸福になれたのか
幼い頃からの夢だった宇宙飛行士になれたヴィンセントは幸福だっとように見えます。
しかし宇宙飛行士として残した名は「ジェローム」です。ヴィンセントという宇宙飛行士は存在しません。
それでも彼の夢は叶い、本当に幸福になれたのでしょうか。
自己否定
地球には自分の居場所がないと思い、宇宙飛行士に憧れたヴィンセント。
もし不適正者でも宇宙飛行士になれる社会だったら、彼は宇宙飛行士になりたいと思ったでしょうか。
多分答えはノーです。適正者しか受け入れられない職業をヴィンセントは無意識に選んでいたのです。
適正者への憧れと不適正者である自分を否定すること。その歪んだ感情が不可能を可能にさせる原動力となりました。
受け入れられないまま
適合者になりすましたことで表面的には彼の願いは叶いましたが、遺伝子の呪縛から解き放たれたのでしょうか。
ジェロームは自分を受け入れた時点で遺伝子が全てを決めるのではないということを知りました。
この境地に至るためには不適正者だけでなく適正者の弱さや葛藤も受け入れなければなりません。
そして遺伝子云々ではなく「自分は自分だ」と胸を張れた時、本当の幸福が訪れるのです。
自己容認に至っていないヴィンセントは本当に幸福になれたとはいえないでしょう。
映画「ガタカ」が伝えたいこと
遺伝子で優劣を決める社会はすでに私達の生活に存在しています。
この映画は科学の進歩によって人間の選別がなされることに警鐘を鳴らしていることは間違いありません。
ですがその一方で、どれほど遺伝子を操作しようとも人間の本質は変わらないことも示唆しています。
優秀な適正者であるジェロームは夢に敗れ、不適正者のヴィンセントは偉業を成し遂げたのですから。
自分の可能性は誰が決めるのでしょうか。映画「ガタカ」にはそんなメッセージが込められているのです。