出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/4909343008/?tag=cinema-notes-22
東日本大震災・復興プロジェクトとして山本監督が手がけた劇場アニメーション「薄暮」。
岩手・大槻町が舞台の「blossom」、宮城・仙台市が舞台の「WUG」に続く“東北三部作”の最終章は、福島県いわき市が舞台となりました。
東日本大震災から6年。「薄暮」は、現在も被災地となっているいわき市に住み懸命に生きながら成長していく高校生の青春ラブストーリーです。
クラウドファンディングの協力により映画製作が実現したことでも話題の作品になりました。
当時、震災により原発事故が起きたいわき市。この土地が「薄暮」の軸となり、さらに映画の世界観に深みを与えています。
今回は「薄暮」の世界観、監督がこの映画にこめた想いを解明しつつ、映画の聖地となったいわき市についても解説していきましょう。
いわき市が舞台となったことで
いわき市の自然がもたらす影響
今を生きる高校生の物語の舞台に選ばれたのは、東日本大震災で被災地となったいわき市でした。
私たちが決して忘れてはいけない東日本大震災を経験した主人公。
復興中のいわき市を舞台にすることで、山本監督は何を描きたかったのでしょうか。
「薄暮」と芸術
「薄暮」の中心には芸術が存在します。
音楽を愛し被災後もヴァイオリンをやめなかった小川佐智と、今までの風景を失った福島を思い、絵を描く雉子波祐介。
2人を結びつけたのは、福島の壮大な自然な中で佐智が奏でる音楽と、壊れかけた福島の地を残す祐介の絵でした。
つまり2人の心は芸術で結ばれたのです。しかもそれは被災地「福島」「いわき市」だからこそ際立つもの。
壮大で豊かな福島の自然とそれを失いかけてしまった東北大震災を風化させないという山本監督の想いが、この映画のストーリーから読み取ることができます。
音楽から読み解く「薄暮」
「薄暮」には主題歌「とおく」をメインに様々な音楽が本編を際立たせます。
2人を結びつけた音楽から3つを抜粋し、「薄暮」に深みを与えたポイントを読み解きます。
「弦楽四重奏曲第14番」 作曲 ベートーヴェン
ベートーヴェンの最晩年の傑作として知られています。
ベートーヴェン自身会心の作であるこの曲は、芸術性が高く、真っ赤に染まる「薄暮」が目に浮かぶ楽曲です。
また伝統的なクラシックの型から大きく隔つ旋律に変化しています。
この選曲から、大震災の前後で変わったいわき市の風景や2人の気持ちの変化を物語っていることが理解できます。
佐智が部活で組んだカルテットが最初に挑戦する曲だという点も、この曲の重要性の裏付けでしょう。
「薄暮」の中で何度も登場するこの「弦楽四重奏曲第14番」。
震災の記憶を風化させずいつまでも心の中に残して欲しいという、山本監督の願いが込められていることが分かります。
「朧月夜」 作曲 岡野貞一
佐智が祐介に出会って、初めてヴァイオリンを披露したときの曲です。