それは満たされない愛へのコンプレクスが表面化した結果だと捉えることができるのではないでしょうか。
両親から受けるはずだった愛を女性に向けるしかなかったエドワード8世。
作品中ではただの自由奔放な人物としてしか描かれていませんでしたが、彼もまた心に傷を負った人物の1人だったのです。
シンプソン夫人の真実
エドワード8世を騙して手玉に取ったように描かれているシンプソン夫人。
しかし実際は彼女からエドワード8世に言い寄ったわけではなかったようです。
エドワード8世が彼女に猛アタックし、押し切られるような形でシンプソン夫人は交際を始めたとのこと。
本当のことは当事者でないと分かりませんが、エドワード8世は彼女に母性を求めていたのかもしれません。
彼らの人生がほんの一部しか作品中で触れられていないため、悪い人間として見られてしまう可能性があります。
しかしそれはあくまでも映画の演出であることを忘れないで観た方がいいでしょう。
監督が伝えたいこと
ジョージ6世とローグの、身分を超えた友情がテーマになっている「英国王のスピーチ」。
そこだけを切り取ってみると私達庶民が共感できる部分は多くありません。
しかし観る者をじんわりと感動させるのはなぜでしょうか。
ローグの成功と影
王族相手にも対等な関係を要求し、自分のスタイルを崩さなかったローグ。
自信とプライドを持ち合わせた彼は向かうところ敵無しのように見えます。
しかし彼には演劇の舞台に立ちたくてもオーディションで落とされてしまうという一面もありました。
ジョージ6世の信頼を得ることに成功した彼が自分の本来の夢を叶えられていないという現実。
誰もがパーフェクトではないのだというメッセージが伝わってきます。
心の葛藤
ジョージ6世に限らず困難に立ち向かう場面は私達にも訪れます。国王だろうと人間であることには変わりありません。
治療に何度も心が折れるジョージ6世はいつまでも自信が持てず、自分には無理だと弱音を吐きます。
その姿はあまりにも人間的です。ここに多くの人が自己投影したのではないでしょうか。
不可能と思われたことでも真剣に向き合い続ければ道が開けることを実証したジョージ6世。
この映画がノンフィクションであることがその説得力を強めているのです。
歴史を知らなくても大丈夫
ジョージ6世が国王になったのは第2次世界大戦直前のことでした。
チャーチル首相やヒトラーなど歴史にその名を刻む登場人物も描かれています。
歴史をあまり知らない人には謙遜されがちな映画にみえますが、そんなことはありません。
この映画は歴史劇ではなくヒューマンドラマとしての要素が強いのです。
歴史の蓋を開けたらそこには人間の弱さがあった。