彼はボードビル出身で、その愉快な動きや顔の表情は本作の中でも遺憾なく発揮されています。
ハイライトは本作の中でも数少ないオリジナル曲である「メイク・エム・ラフ Make ‘Em Rough」。
家具や人形を相手に一人で踊るオコナーのダンスは、ケリーとは一味違うテイストを持ち、映画にメリハリを付けています。
まさにオコナーの「芸達者」ぶりが堪能できるシーンといえます。
体育会系ダンスのケリー、相対するコケティッシュなボードビル風ダンスのオコナー、映画の中に二人の魅力が溢れています。
なぜ「金字塔」か?③レイノルズとヘイゲンの魅力
頑張った新人デビー・レイノルズ
男性陣に対して魅力を放つのが若干19歳のデビー・レイノルズと、悪声のハリウッド女優を演じたジーン・ヘイゲンです。
レイノルズは歌もダンスも経験が無く、映画でみられるようになるまでは相当苦労して練習しました。
ジーン・ケリーの指導はかなり厳しかったといわれます。靴ずれ・指ずれが酷く足から血を流しても練習を続けたとか。
(ジーン・ケリーは監督も兼ねていたので厳しさは当然といえるでしょう)
しかし彼女はこれを克服し、ジーン・ケリーとドナルド・オコナーという名手を相手に一歩も引けを取らない歌とダンスを披露しています。
数少ない3人でのダンスシーン「グッド・モーニング Good Morning」は彼女の歌とダンスのハイライト。
彼女の苦労が生きた映画の中でも名シーンの一つとなりました。
ダンスの名手ジーン・ケリーに見いだされ、大役を任されたレイノルズ。
しかしレイノルズは負けず嫌いだったのでしょう。文字通り血のにじむ努力を重ね、見事大役をものにしました。
そして彼女はこの映画をハリウッドでのジャンピングボードにしたわけです。
欠かせないジーン・ヘイゲンの役どころ
一方、レイノルズ扮するキャシーに声を吹き替えられてしまう悪声のハリウッド女優リナを好演しているジーン・ヘイゲンも印象に残ります。
ドンの恋敵でもあり、か弱いコーラス・ガール出身のキャシーに対し貫禄も名声もある悪声のハリウッド女優を好演。
彼女の存在がなければ、この映画がどんなに面白くない作品になっていたか、と思わせる貴重な役どころです。
この映画のコメディ要素はヘイゲンに依っている部分が大きいといえるでしょう。
また会社を脅すような憎まれ役でもあり、レイノルズの引き立て役でもありました。
しかし、どこか心底憎めない「頭のネジの外れ方」が見事な演技となっていることは衆目の一致するところでしょう。
ヘイゲンもこの映画のヒットで人気スターの仲間入りを果たしたのです。
新人女優とベテラン女優、それに名手男性二人のキャラクターと四人の駆け引きは本作の楽しさのキモになっているといえます。
古き良きアメリカを演出
狂騒の20年代
作品の舞台になるのは1927年。まさにサイレントがトーキーに転換していく時期です。
ドンやリナが所属する映画会社の社長も時代が変わるということは理解していました。
そこで、彼らが出演している映画をトーキーにすることにします。
彼が影響を受けたのがワーナー映画が1927年に作った世界初の長編トーキー映画「ジャズ・シンガー」でした。
この映画はアル・ジョルスンを起用して実際に作られ大ヒットしました。本作では唯一、事実が挿入されている箇所です。
第一次世界大戦が終わり、20年代は29年のウォール街大暴落までジャズミュージック・フラッパー・アールデコとっいった文化の華が開きます。
「華麗なるギャツビー」の世界です。狂騒の20年代と呼ばれました。そうした時期に映画も大きな転換点を迎えたわけです。
脚本家はアメリカという国と文化が大きく変わろうとしていた、動こうとしていた20年代に目を付けました。
そして時代そのものの魅力を映画に落とし込もうとしたと考えられます。
古き良きアメリカ
本作ではこうした「古き良きアメリカ」を意識させる時代に舞台を設定しました。