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【ゼロ・グラビティ】画的な演出のメタファーを徹底考察!無重力の正確な表現にこだわる理由とは?犬の鳴き真似の意味にも迫る

SF Gravity

出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B00DY64A3U/cinema-notes-22

アルフォンソ・キュアロンは撮影監督であるエマニュエル・ルベツキとの名コンビで知られるメキシコ出身の名監督です。

2人は『大いなる遺産』や『天国の口、終りの楽園』などで画的に美しい映画を作ってきました。

その代表作が2013年製作の『ゼロ・グラビティ』です。この作品でキュアロンとルベツキは各々アカデミー賞の監督賞と撮影賞を獲得しました。

ユニークな撮影方法や3Dでの劇場公開により宇宙空間の臨場感が前面に出ることになりました。が、そこには隠されたテーマがあったのです。

それにつながる画としてのメタファーは数多くあり、ここではその全容解明を試みましょう。

またリアルな無重力表現にこだわった理由やライアンが見せた犬の泣き真似の真意にも迫ります。

基礎となるメタファー

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『ゼロ・グラビティ』は宇宙空間を舞台にした単なるディザスタームービーではありません。

そこには数々のメタファーによって作られた別の物語があるのです。

生のメタファー:グラビティ

この映画のメタファーを語る上で最も基本となるのは原題でもある『Gravity(グラビティ)』でしょう。

重力を意味するグラビティは、この映画では生そのもの・生きることのメタファーだといえます。

映画の最終盤、地球に生還したヒロイン・ライアンが地上を歩き始めたときにこの原題が入ることで重力と生が明確にリンクするのです。

死のメタファー:デブリ

ロシアによる人工衛星の爆破によってその破片・デブリが地球の周回軌道に乗り各国の宇宙船が危険にさらされることになります。

そのデブリは死のメタファーではないでしょうか。周回軌道に乗ったデブリは約90分ごとに地球をグルリと一周して何度も襲い掛かってきます。

それは周期的にやってくる人生の災いにも似ているでしょう。または死の運命にも重なります。

現れては消えそしてまた現れるデブリはあらゆる生き物にとって決して避けられない悲劇を示しているのではないでしょうか。

生死の境界メタファー:ゼロ・グラビティ

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デブリ飛来の被害を受けたライアンは何度か宇宙空間に投げ出されることがありました。

その無重力のスペース:ゼロ・グラビティは生死の境界を示すメタファーなのではないでしょうか。マットの行動がそのヒントになります。

マットは絶望的に宇宙に投げ出されたあとも無線によってライアンへ助言を送ります。それはまるで死者からのメッセージのようでした。

それは後のシーンの伏線にもなります。死んだと思われたマットが窓から宇宙船に侵入しライアンに助言を与えるのです。

それはライアンの幻想のように描かれましたが、死んだマットに遭遇した霊視体験という見方もできます。

ライアンはひどく絶望した状態であり、そんなときに自分で自分の命を救うようなアイデアが生まれるのかという疑問がわくからです。

マットがあの世から救いに来たと見る方が自然でしょう。彼が壊した窓がすぐに直っていたのも霊の通り抜けの証拠ではないでしょうか。

そういう点からも、無重力のスペースは生者と死者が交じり合う境界のメタファーだったということが読み取れます。

生物の誕生や転生につながる数々のメタファー

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映画には人をふくむ生物の誕生を示す多くのメタファーがあります。そして深く見ると輪廻転生さえ読み取れるものもあるのです。

生還後すぐに立ち上がったライアンが示すもの

誕生を示す最も明快なメタファーはやはりライアンが宇宙船に戻り、丸くうずくまって空中浮遊するシーンでしょう。

それを見て子宮の中の胎児を想起した人は少なくないはずです。船内の細いコードが胎児のへその緒代わりになっていた演出も見逃せません。

さらに、へその緒はライアンが地球の大気圏に突入する際に宇宙船に引っかかったパラシュートにも重なります。

彼女がそれを切って飛び立とうとする様はまさに生まれようとする胎児そのものです。大気圏への突入は精子による卵子へのそれを思わせます。

ライアンが不時着した池は子宮の羊水でしょう。陸地に上がった彼女がすぐに立ち上がるさまもまたメタファー的な演出ではないでしょうか。

宇宙から還った人が地球の重力に慣れるまでには相当な時間がかかるのは周知の事実です。

しかし、ライアンはふらつきながらもすぐに立ち上がります。そのためその姿はシカなどの小動物の誕生を想起させます。

最後のこの演出によってこの映画のテーマが宇宙からの生還ではなかったということが暗示されていたようです。

宇宙船の乗り換えが示す輪廻転生

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メタファーとしてライアンが最初の事故で一度死んだのではないかという見方もできます。

事故後、彼女はアメリカの母船からISS(国際宇宙ステーション)の船を経て中国の宇宙ステーション『天宮』に命を預けることになります。

この幾つかの宇宙船の乗り換えは死者が生まれ変わる前にさまざまな母体の間をさまよっていることを想起させます。

彼女はアメリカ人として死に、一度世界中の人種が集まる場所に預けられ、そして中国人として再生するということです。

つまり輪廻転生です。アメリカ人が中国の宇宙船に乗るギャップもその印象を強めます。その宇宙船の名前が『神舟』という点も見逃せません。

なぜ、ほとんどの人がメタファーを見落としたのか

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ここまで作中のメタファーについて書きましたが、ほとんどの人はそれに気づけなかったのではないでしょうか。その理由に迫ります。

ライアンがセクシーな母親であること

ライアンが宇宙船で丸くなるシーンは多くの人に胎児のイメージを与えたでしょう。しかし彼女は誕生のメタファー役として最適とはいえません

ライアンがほぼずっと大きな宇宙服を着用し、それを脱ぐとセクシーであること。そして彼女がすでに子どもを生んだ母親であること。

これらのことが純粋無垢な胎児の誕生というメタファーを曇らせていたことは否定できないでしょう。

この観点からすれば、若い男性を主役にした方が良かったといえるのではないでしょうか。

宇宙と子宮の極端なスケールの違い

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宇宙と子宮とは概念的にはつながるものでしょう。マクロとミクロのレベルにおいて、どちらも生命の起源といえる場所だからです。

しかし実際のスケール差はこれ以上なく大きいものです。宇宙が果てしなく広い場所であるのに対し、子宮は小さな生命体の一臓器に過ぎません。

それによって多くの人は、この映画の宇宙から生命誕生のプロセスを想起しにくかったのではないでしょうか。

それでも精子を想起させる大気圏突入など、画的に宇宙と子宮をつなげるシーンは数多くありました

ディザスタームービーであること

この映画は基本、宇宙で起きたディザスタームービーです。さらに特殊な撮影方法や3Dの劇場公開で臨場感が最大限に高められていました。

ほとんどの鑑賞者はアトラクションに乗って宇宙の危機を追体験する気分で観ていたことでしょう。そのドキドキに心を奪われていたはずです。

メタファーの力を強めるにはアンドレイ・タルコフスキー監督の名作『惑星ソラリス』のようにすれば良かったのではないでしょうか。

『惑星ソラリス』では宇宙空間の多くのことがこの映画よりもメタファーとして生きていました。

それはドラマに比重を置いていたからです。キュアロン監督も映画の時間を伸ばして主人公の物語に力点を置くべきだったのではないでしょうか。

正確な無重力を表現するのに最適なワンカット撮影

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無重力を正確に表現するために『ゼロ・グラビティ』ではワンカット・長回しの撮影方法を多用しています。

シーンを切ることなくワンカットでずっと撮り続けることです。それによって鑑賞者は永遠に宇宙空間を浮遊しているような感覚になります。

「ライトボックス」とスタッフが呼ぶ大きな箱の中にワイヤーで吊った俳優たちを入れて撮影したことで技術的に可能になりました。

ライアンの主観を中心にしたカメラワークの中、彼女の完全主観を混ぜている点も見逃せません。

カメラを完全に彼女の視界、また音響を彼女の聴覚に合わせたシーンによって鑑賞者は無重力をより感じたのではないでしょうか。

無重力にこだわった理由とは

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ワンカット撮影以外にも無重力を感じさせるシーンが多々あります。監督はなぜそこまで無重力にこだわったのでしょうか。

無重力を感じさせるシーン

無重力を感じさせる代表的なシーンは宇宙船内ではないでしょうか

そこは宇宙空間よりも私たちが親密感を覚えるスペースなだけに無重力の特殊性が際立ちます。

特に目を引くのが事故の破損によって炎の塊がまるで生き物のようにふわふわと飛び交っているところでしょう。

船内のシーンはNASAの協力を得てリアルに描写したといわれています。

宇宙船外でも地球の引力に引っ張られるシーンは逆に無重力を感じさせます。私たちは重力に負けていることが前提になった生活を送っています。

そのため地球の引力を感じることはほぼありません。一方、映画の宇宙飛行士たちはたびたび地球の強大な引力に脅かされることになります。

それによって観る側は彼らが重力から自由になった無重力スペースにいることを痛感させられるのです。

監督が無重力にこだわった理由とは

キュアロン監督はなぜここまで重力にこだわったのでしょうか。何しろほぼ全編が無重力空間であり原題もまた『Gravity』(重力)です。

それはやはり重力に生というメタファーを与えたかったからでしょう。ライアンは宇宙空間においてずっと重力と闘っていたといえます。

定期的に襲い掛かってくるデブリや大気圏突入の恐怖はすべて地球の重力である引力がもたらしたものです。

地上に生きる普通の人にとっても重力は時に災いをもたらします。思わぬ転倒や落下事故などがそうです。

が、それと同時に重力は私たちの命を一所に固定してくれるものでもあります。重力は恩恵と災いの両面があるという点で生そのものと重なります。

監督は無重力空間を正確に描写することで、このテーマをリアルに伝えたかったのではないでしょうか。

ライアンの犬の鳴き真似が意味するものとは

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ドラマとしてこの映画で最も際立ったシーンはライアンが犬の鳴きまねをするところではないでしょうか。

宇宙船内でたまたま拾った地球上の電波から、彼女はおそらくどこかの家庭で飼われた犬の鳴き声を聞きそれを真似るのです。

一見、地球の生活を懐かしむノスタルジーのように見えます。しかしそれは「生きたい」という彼女の意思そのものだったのではないでしょうか。

ライアンはそのとき地球への生還をほぼ絶望視していました。それだけに電波が拾った犬の鳴き声から生命の輝きを感じたのかもしれません。

犬に続いて赤ん坊の泣き声がするのにも意味があるでしょう。

ライアンの犬の鳴き真似とは誕生のメタファーに満ちたこの映画にとって「産声」を示すものだったのではないでしょうか。

このように『ゼロ・グラビティ』は画的なメタファーを読み解けばいっそう楽しめる映画になっています。