ノクが薬を盗んでいたのも、家主の了解は得ていたとはいえ、一般的に見て犯罪行為ではあります。
ノクもそれをいい事だとは思っていないのでしょうが、盗みをしないと生きていけないのです。
家主の家は薬に困らない位いい暮らしをしているのに、一方のノクは義足な上に薬を買う十分なお金すらない。
その対比が夢のユートピアではない生活を浮き彫りにしていました。
人種差別
某国の大統領は就任演説の時に「チェンジ!」という言葉を使いました。
しかし、難民排除を目的とした壁をメキシコとの国境に作る、などの人種差別を行っているのも事実です。
「ダウンサイズ」でもこの人種差別という問題は大きく描かれていました。
白人で小型化した人間はいい暮らしをしているのに、それ以外の人間はとても雑で質素な暮らしをしているというシーンからそれが見えます。
アメリカは未だに白人至上主義の根強い社会です。
監督はそういった社会に「NO!」と言いたかったのではないでしょうか。
主人公のポールは白人で、謂わば普通の存在として描かれています。
しかし、ノクの存在は一癖も二癖もあるような性格として扱われていました。
そこに白人以外の人種を受け入れない社会というものに警鐘を鳴らす監督の鋭い感性がみられます。
監督が伝えたい事
今作を通してアレクサンダー・ペイン監督の意図するものとは何だったのでしょう?
そこを紐解いていきましょう。
小型化すれば幸せ?
人間は幸せであっても欲深い生き物で、それ以上の幸せを追い求めようとします。
それが本作品の「人間小型化」だといえるでしょう。
環境問題、人口増加などなど自分達に都合のいい言い訳をくっつけて要は自分達が楽をしたいだけと言えます。
小型化しても、そのままでも人類は同じような一途を辿るのです。
「人間小型化」はあくまでも理想論であり、幸せはもっとそういう次元ではない全然別の場所にある、という事を監督は訴えたかったのでしょう。
人生の選択肢は一つではない
人間は日々、選択の連続を繰り返して生きる生き物と言えます。
眠る、食べる、話す、などなど人は毎日いくつもの選択を迫られて自分のしたい事を選び生きているのです。
話す言葉一つをとっても人間は自分の意志で選ぶことが出来ます。
「ダウンサイズ」はそんな私達に人生の選択肢は一つではない、という事を見事に提言してくれた映画でした。
小型化するかしないか?そこで物語は始まりラストのポールの決断に至ります。