それは何よりも若い未熟さを訴えてきます。彼女は精神的には老成していながらもまだ人生経験は乏しいのです。
その意味で空っぽのパイプは象徴的です。パイプをくわる姿からは出産への恐怖心を虚勢で隠そうとする彼女の弱い本性が透けて見えてきます。
序盤とラスト・対照的なギター演奏デュエット
劇中ではストーリーを引き立てる小道具としてギターが活躍します。2つのシーンを見てゆきましょう。
マークと弾いたパンクロック
ジュノは子供を子宝に恵まれないマークとヴァネッサ夫婦に養子縁組させようとします。そこで彼女はマークと思わず仲良くなってゆきます。
マークは中年男性ながら音楽やコミックなどポップカルチャーの大の愛好家であり女子高生ジュノと意気投合するのです。
この点は想定外の転換点の伏線にもなっており、とても計算されています。
出会ったその日からジュノとマークは一緒にギターのデュエットを楽しみます。そこで演奏されていたのはホールの”Doll Parts”でした。
ホールはコートニー・ラブが率いる女性パンクバンド。
この後のシーンでヴァネッサはマークが幼いことを非難する際、カート・コバーンの名前を口にします。
カートは伝説的なパンクロッカーでありコートニー・ラヴと結婚していました。
ジュノとマークのギター演奏デュエットは2人のパンクロッカーのような無垢さを明示するものだったといえるでしょう。
ポーリーと弾いたフォークソング
映画のラストでは、ジュノはポーリーと一緒にギター演奏デュエットをします。
そこで歌われていた曲がインディーズバンド・Moldy Peachesの”Anyone Else but You” でした。
これはカーペンターズなどを思わせる大昔のフォークソング調の曲です。ここには明らかにジュノの心境の変化がこめられているでしょう。
ポップソングの中でパンクロックはまさにティーンの叫び。対するフォークソングは人生経験を積んだ大人の語りかけです。
同じギター演奏によるデュエットを通じ『JUNO/ジュノ』は16才の主人公の成長を表現したといえるでしょう。
コミック色の強い小道具全般
この映画には他にも小道具を活用している点が多々見受けられます。その中から2つを解説しましょう。
ポップな小道具の起点になったアニメ調のオープニング・タイトル
ジュノの部屋はハンバーガーの電話などポップ・テイストに満ちています。壁には日本の漫画にも通じるコミックのポスターもありました。
そういったポップ・テイストはオープニング・タイトルから始まります。そこでは実写・アニメ・実写とシーンがスライド転換しました。
コミックの原作があるのかと思わせるほどの出来であり、ほぼ手書きで製作に7ヶ月もの期間を要したようです。
このユニークなオープニングは、作品全体にコミック・ポップな小道具を数多くちりばめる起点になったといえるでしょう。
日本の漫画『妊婦ユキ』の真偽は?
映画ではコミックもまた1つの効果的な小道具になっていました。
『Most Fruitful Yuki』というタイトルの日本のコミック・ブックが紹介されたのです。
妊娠した女子高生がお腹を丸出しにして刀で斬りかかるその絵はインパクト大でした。
女性の活躍が社会を超えてポップカルチャーにも浸透したアメリカには妊婦のスーパーヒーローも見受けられます。