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高校生の青春を描く武田綾乃の代表作『響け! ユーフォニアム』シリーズはテレビアニメ化もされており、今作は『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』を京都アニメーションが映画化した作品です。
今作の特筆すべき点は、圧倒的な透明感と静謐さ。
作品のイメージを方向づけるこれらの要素をもたらしているものはいったい何なのかを考察していきましょう。
スピンオフにして、独立した作品としても成立
劇中作の童話『リズと青い鳥』は、映画のストーリー全体で非常に大きな役割を果たしています。
『響け!ユーフォニアム』シリーズのスピンオフである今作。
これまで作品に触れていない人にも楽しんでもらうためには、多少説明口調のセリフを入れるのが普通です。
しかし童話を用いることで、それらのノイズになり得る要素を入れ込まず、観る側に登場人物や映画の世界観を伝えることに成功しています。
原作『リズと青い鳥』の役割
設定説明のためだけではない童話『リズと青い鳥』の役割
童話『リズと青い鳥』は主人公2人の関係性やストーリーなどの設定説明の役割だけではなく、「二人で出る最後のコンクールの自由曲」としての役割も持っています。
今作はこの「自由曲」に取組む過程での主人公2人の葛藤や成長を描いており、童話は多面的な役割を持つことで映画全体に統一感を持たせるという役割も果たしました。
人間としての成長を助ける教科書としての役割
二人で出る最後のコンクール。
自由曲は「リズと青い鳥」。
童話をもとに作られたこの曲にはオーボエとフルートが掛け合うソロがあった。
ちなみに、このソロパートとは自由曲「リズと青い鳥」の「第三楽章 愛ゆえの決断」部分。
第三楽章のソロ練習の場面で、顧問の滝先生から演奏する上でのアドバイスを伝えるシーンがありました。
そのアドバイスからは、映画全体を通して感じる主人公2人の未だ洗練されていない拙いコミュニケーションを改善させるヒントや、2人のありのままの関係性を感じ取ることができます。
「笠木さん、オーボエの音を聴いていますか?
悪くはありませんが、少しあなたの方が感情的になりすぎることがある。
この部分はお互いの音を聴くことが何より大事です。
あなたから鎧塚さんへ、そっと語り掛けるように。できますか?」
リズと青い鳥/配給:松竹
滝先生から希美への演奏のアドバイスは、希美のみぞれへのコミュニケーションの取り方そのものを表現しています。
「鎧塚さん、ここはオーボエとフルートの掛け合いが何より大事です。
あなたもフルートからの問いかけに答えなくてはなりません。
音楽には楽譜に書ききれない間合いがあります。
譜面の隙間を流れる心を汲み取ってください。
もっと歌って。できますか?」
リズと青い鳥/配給:松竹
そして、みぞれに対するアドバイスを言い換えれば「希美の言葉を額面通りに受け取るのではなく、言葉の行間や心の中を汲み取るようにしなさい」となります。
2人の演奏に対する滝先生のアドバイスはメタファー(暗喩)の働きも持っていることがわかります。