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本作は、2004年にコンピューターゲームが発売されて以来、絶大な人気をほこる『Fate/stay night』劇場版3部作の第1作目です。

映画の主題は「正義の味方とは?」という問い。

この主題を深く理解するためには主人公の衛宮士郎もさることながら、ヒロインである間桐桜の役割を知ることが重要になります。

この記事ではまず桜に出会う前の士郎について考察したうえで、桜が士郎に与えた影響について徹底的に解説していきましょう。

士郎のモラトリアム

劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] UFOつままれ ラバーパスケース 衛宮士郎

桜に出会う前の士郎は一言でいえばモラトリアムな状態です。

つまり自分が何者なのか? 将来どんな人間になりたいのか?が曖昧ということ。

象徴的なのは映画冒頭の弓道部でのシーンです。

弓道部の部長は顧問である藤ねえに対して、士郎の印象をこんなふうに告げています。

「ほかの一年とは毛色が違う」

引用:Fate:stay night [Heaven’s Feel]/配給会社:アニプレックス

しかし、どう違うかについては部長もはっきりと言語化することができません。

基本的に映画の冒頭というのは「主人公はこういう人間だよ」ということを視聴者に紹介していくものです。

そのような重要な場面であえて「異質だけどよくわからない存在」としての士郎が語られます。

これは「士郎自身も自分が何者であるかをよく分かっていない」ことを強調するための演出だといえるでしょう。

理想と現実のギャップ

 Fate/stay night Heaven’s Feel 下敷き 士郎&桜

では、士郎はなぜモラトリアムな状態になっているのでしょうか。

その答えは「理想と現実との間にギャップが存在するから」にほかなりません。以下で詳しく見ていきましょう。

正義の味方とは?

最初に書いたように、士郎は「正義の味方」を目指していますが、具体的にどうなりたいかは曖昧です。

そんな士郎に対して、物語のなかではシリアスな「正義の味方像」が語られていきます。

「正義の味方には倒すべき悪が必要だ」

引用:Fate:stay night [Heaven’s Feel]/配給会社:アニプレックス

あるいはこんな言葉もありましたね。

「誰かの味方になるってことは、誰かの味方をしないってこと」

引用:Fate:stay night [Heaven’s Feel]/配給会社:アニプレックス

聖杯戦争がはじまる以前の士郎にそのような「偏り」はありません。

むしろ、ほかの生徒たちの頼みを聞いてあげるなど博愛主義的な人物像が描かれています。

聖杯戦争に参加する理由も、10年前のような被害から「みんなを助けること」であり、そこには明確な敵がいないのです。

士郎が正義の味方をめざす理由

そもそも士郎はなぜ正義の味方をめざしているのでしょうか。

それは作中で何度も語られるように「切嗣の真似」でもあり、さらに遡れば10年前の火災から生き延びた使命感でもあります。

つまり「自分がそうしたいから」ではなく「そうしなければならない」という強迫観念に近いものだといえるでしょう。

「心の底からやりたいこと」ではないために迷いや葛藤が生まれて、士郎はモラトリアムな状態から抜け出すことができません。

さらに、士郎が自分の感情に蓋をしてまで正義の味方にこだわる理由のひとつに母親の不在があります。

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母親の不在について

Fate/stay night(Heaven's Feel) 第2章lost butterfly 第5週目 特典 35mm フィルム コマ 図書室にてアーチャ・凛・士郎(動きあり)?

印象的なのは士郎と桜が蔵でストーブを前にして語り合うシーン。

士郎は養子として育ったことを気にしない理由について、年上がみんな頼りなかったからと答えます。

切嗣も藤ねえも家事がまるっきりだったため自分が家事をしていたと回顧するシーンです。

このエピソードは士郎が「母親的な存在を欠いて」育ったことを明確に表しています

順番は前後しますが、桜がはじめて士郎を知ったときのエピソードにも実は母親の不在が関係しています。

放課後に士郎が何度も走高跳びに挑戦していたというエピソードです。

桜はこんなふうに回想しています。

「最後には自分じゃ飛べないと納得して帰って行きました」

引用:Fate:stay night [Heaven’s Feel]/配給会社:アニプレックス

普通の男の子なら走高跳びが飛べなければ「納得できず」に落胆して帰っていくでしょう。

そして家に帰れば母親がいて「気にしなくていい」と慰めてくれるはずです。

母親に許されることで子どもは「走高跳びを飛べなくてもいいんだ」とようやく納得できます。つまり挫折を受け入れるのです。

なぜなら「何も出来なくても無条件に愛してもらえる」という安心感があるから。

士郎の日常にはそういう「安心感を与えてくれる存在」がいませんでした

切嗣はあくまで父親的な存在であり、そこには無条件の優しさだけでなく厳しさが同居していたはずです。

だからこそ悔しさを通り越して、自分自身が「納得」できるまでは、走高跳びをやめることが出来なかったと考えることができます。

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