劇中で素子は暗い夜の海にダイブします。その理由を問われた際に次のように答えます。
全部電脳と義体にすれば、可能なことはすべて実現する人間の本能みたいなもの
引用:GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊/配給会社:松竹
つまり、電脳と義体だけで人間をの本能を再現できるということです。海は地球の7割を占めており、まさに地球の入り口といえます。
地球の入り口に潜ることで「巨大な生命体の地球」にアクセスでき、さらに地球上のすべてにつながることができるのです。
草薙素子を草薙素子たらしめる
では、地球にアクセスすることでどのような効果があるのでしょうか。これは先ほどの海に潜る理由を問われたときの発言からも見て取れます。
自分が自分であるため、人間であるためには数多くの部品が必要
引用:GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊/配給会社:松竹
本作では、さまざまな人間が存在しており、完全に生まれたままの姿の人間もいれば、義体を使ってサイボーグになっている人間もいます。
素子は完璧なサイボーグ人間。サイボーグ人間が人間であるためには、数多くの部品が必要なのです。
サイバー化しているこの時代、脳ひとつあれば人間と捉えられ、その脳がサイバー世界にアクセスし、情報を収集することができます。
素子は人一倍サイバー空間へアクセスする感覚が強く「ゴーストの囁き」が聞こえるほどの人間です。
地球にアクセスをすることで、草薙素子を草薙素子たらしめるための情報を収集・整理しているのではないでしょうか。
「自分」が確立すれば、「他」を確立できる。つまりゴーストの誕生
自分が自分と意識できるから他が明確になります。素子にとって海に潜ることは、「自分の意識」を確立するための方法なのです。
こちらも海に浮かぶ船上で、潜ることの意味を語るシーン。
他人と違う顔、意識しない声、目覚めの時に見る掌、幼かったころの記憶、電脳がアクセスできる膨大な情報やネットの広がりそのすべてが「私」という意識そのものをうみだし、そして「私を」ある限界に制限する
引用:GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊/配給会社:松竹
こちらでも、電脳でアクセスする情報が「私」という意識をうみだすものとして重要であることが語られます。
その結果「限界に制限」、つまり他が確立するのです。この他に当たる部分・境界が「ゴースト」であり、意識そのものになります。
「ゴーストの囁き」が聞こえる素子は、この境界が曖昧になることがあるからこそ、他のゴーストの情報が電脳に流れてくるのでしょう。
そして曖昧さをなくすためには、海に潜り地球にアクセスし、情報を整理して自分のゴーストを明確にする必要があるのです。
海の中で水面に映る素子は人形使いとの融合を示唆
地球にアクセスするということは、サイバー空間ともつながることです。
劇中で海に潜っている間、水面に素子が映し出されます。
その後、素子同士が重なり合うのですが、それはサイバー空間では「他者同士が一つになれること」を示唆しています。
さらに素子の場合、その「他者」とは人形使いであることを暗示していたのです。
ラストのシーンでは、素子は人形使いと融合し広大なネットの世界へと旅立ちます。広大なネットの世界は広大な海を思わせるもの。
つまり海に潜るシーンで、素子が水面に映って素子と融合するのは、映画のラストを示すシーンを示すものだったのです。
「ゴースト」の元はデカルトの二元論?精神と肉体は別物
「我思う、故に我あり」で有名なデカルトは17世紀に活躍した哲学者で、二元論(心身二元論、心身問題)を提唱した人物です。
様々な指摘はありますが、一言で説明すると「精神と肉体は別のものであり、肉体という箱に精神が収まって指令を出している」ということです。
本作の「ゴースト」を考える上で、この二元論はぴったりと当てはまります。
ゴーストは自分の精神と最も外側にある境界線を含めたもの
二元論では精神と肉体は別物とされ、精神=「私」の意識そのもの。本作では義体を装着している人も「人間」です。
頭部を義体化する際には、脳を金属のシェルに入れて「脳核」とし、脳核を他の義体に入れ替えても「自分」を意識することができます。
まさにデカルトが唱える二元論と同じ考え方です。一つ違う点は電脳に入れられたゴーストが他者から攻撃を受けたとき、反撃機能があること。
反撃をするということは、相手の攻撃に対して「反撃に出よう」とする境界線が必要です。
つまり自分の精神(無意識・意識・自我)とその境界線を含めた総称を「ゴースト」と捉えることができます。