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【007 カジノ・ロワイヤル】モノクロ場面の採用理由を徹底解説!ヴェスパーの真の役割とボンドへの愛の形とは?ラストも考察

出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B076PB8XWP/cinema-notes-22

『007 カジノ・ロワイヤル』は、スパイ映画の金字塔『007』シリーズの21作目として2006年に公開されました。

イアン・フレミングによる原作小説シリーズでは第1作目にあたる本作は、6代目ジェームズ・ボンドとしてダニエル・クレイグを迎えています。

そんな新生『007』を彩るのは、それまでと一線を画したユニークな演出の数々と、“ボンド・ガール”ヴェスパー・リンドの愛と裏切り

なぜ映画『カジノ・ロワイヤル』には従来と異なる演出が目立つのか?ボンドにとってヴェスパーはどんな存在であったか?

映画ラストも含め、ひも解いてゆきましょう。

『007 カジノ・ロワイヤル』はボンドはじまりの物語

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結論から申し上げます。このカジノ・ロワイヤルは、冷徹な秘密諜報員にならざるを得なかったひとりの男の葛藤の物語です。

最後の最後まで出てこないあの名台詞

主題歌が冒頭に流れる従来と逆転した構造。これらの演出は、映画のテーマを表現するためのものと考えられます。

中でもボンドの葛藤を象徴するのが冒頭のモノクロ場面、そして本作のボンド・ガール、ヴェスパー・リンドとの関係性でした。

冒頭、映画はなぜモノクロで始まるか

カジノ・ロワイヤル (字幕版)

“00(ダブルオー)”のコードネームを獲得する条件、それは任務でふたりの人間を殺すこと。

冒頭、モノクロで映される場面では、ボンドが条件をクリアし、“007”となる過程が描かれています。

このシーンには、映画の主題を表す重要な意図が込められていました。

その鍵となるのが、モノクロの画面から彩色されたオープニングロールへの転換のタイミング、そしてボンドの隠された感情の揺らぎです。

赤く流れる血のタイミング

ジェームズ・ボンドに捧ぐ
モノクロのシーンからカラフルなオープニングロールへの転換となる、画面を赤く流れる血。

この血、実はふたり目の殺人の遂行=007の誕生の瞬間に流れたわけではありません

ふたり目の殺人のあと、場面はひとり目と格闘したバスルームへと巻き戻ります。男の息の根を奪う、ボンドの弾丸。

その瞬間、赤い血とともに流れ出す主題歌の“You Know My Name”。

彼のスパイという修羅の道が、ひとり目を殺めたときから実はすでに始まっていたことが分かります。

殺しを避けては通れないスパイの道を歩むのか、否か。

このあと続く映画の中で、ボンドがこの葛藤を抱え続ける伏線も、実はこの冒頭シーンの中に隠されていました。

ふたり目の殺人、画面に一瞬映ったあるもの

まず、ひとり目の殺人。ぐったりと横たわった相手の姿を見下ろす彼の目の奥には、感情の揺らぎがうかがえます。

そしてふたり目の殺人。ターゲットを銃の一撃で永遠に黙らせたボンド。もう殺人への抵抗はなくなったのか?その表情は冷静です。

しかし実はこのとき、家族写真のようなものが映っていたことにお気づきでしょうか?

それは、ボンドは引き金をひくショットと、ターゲットが撃ち抜かれるショットの間のほんの一瞬。

これはおそらく、ターゲットの家族を写したもの。殺された人物にも、人生があったという重みを感じさせます。

クールに見えるボンドですが、やはり彼の中に揺れる思いが生まれたことが推察できるでしょう。

殺しと共に色づくボンドの世界

ここまでで、冒頭シーンでは作品に横たわるボンドの殺し=スパイの道への葛藤の種があることがわかってきました。

しかし、実はモノクロの演出そのものにもボンドのこの先の運命を示唆するはたらきがあるといえます。

色のなかったボンドの世界が、殺人という罪を堺に鮮やかに彩られていく。このドラマチックな転換は、ボンドの葛藤を思えば皮肉な演出です。

何者でもないただのジェームズ・ボンドという男が、007という映画史に残るヒーローへと変貌していくことが表されています。

ヴェスパー・リンドの役割とは

ボンドガール

本作『カジノ・ロワイヤル』の中で、最も重要な意味を持つキャラクターといえば、ヒロインのヴェスパーでしょう。

彼女は作品の主題に対し、どのような役割を担っていたのでしょうか。

作品を象徴するヒロイン、ボンド・ガール

『007』シリーズでは、1作品ごとに異なるメインヒロイン”ボンド・ガール”が登場するのは周知の通り。

本作ではエヴァ・グリーンが演じたヴェスパー・リンドは、ボンドと愛し合いながらも悲劇的な最後を迎える愛と裏切りのボンド・ガールです。

彼女との関係の中で、ボンドの心情は揺れ動きます。彼女の存在は、ボンドの人生に大きな影響を及ぼしていくことになるのです。

ヴェスパーの装いの変化の裏にある、ボンドの心情の動き

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ヴェスパーは作中、さまざまな装いに身を包んでいます。その変化に目をとめると見えてくるのは、実は彼女自身でなくボンドの心の動きです。

登場時の彼女は、“資金係”という仕事上のパートナー。

上下のスーツにキリっと身を包んだ彼女を、ボンドは魅力的だと認めていますが、まだ特別強く惹きつけられている様子は目立ちません。

続いて、ポーカーゲームが続く場面です。

ここでは、ゴージャスなドレス姿を披露。ヴェスパーがドレスを身にまとっている最中、彼女とボンドの関係は大きく変化していきます。

自分が指示したはずの作戦で、彼女に見惚れてしまうボンド。

ふたりでギャングと対峙したあと、バスルームで震える彼女に優しく寄り添うボンド。

そして、命の危機を救ってくれた彼女に心を開いていくボンド。

ボンドはヴェスパーを、真っ当な世界の人間だと思っていました。彼女への想いは、彼の中のスパイ稼業の因果への疑念とリンクしていきます。

その証拠に、ル・シッフルの拷問から生還し、ヴェスパーと関係を深めたボンドは、MI6を辞める決意を固めました。

このとき、ヴェスパーが着ている服にまた変化が。薄く軽やかな布地のワンピース姿が増えています。特に目立つのが、緑を基調とした服装。

このときふたりが過ごすのも、緑の自然に囲まれた病院。

緑は安らぎの色です。ボンドが平和な幸せを手に入れたと感じていることを表しています。

しかし、その幸せは長くは続かず…。ボンドの目の前で命を落とす彼女が身に着けているのは、血を想起させる赤い色のワンピース。

ボンドは彼女の死を機に、改めてスパイとして生きる道を選びます。

ヴェスパーはボンドが求めた光。しかし…

ボンドからヴェスパーへ抱く心情を見ると、彼が実は平穏を求めていたことがわかります。

さらにいえば、彼は彼女こそが自分を真っ当な世界へと連れ出してくれる存在だと思っていたのではないでしょうか。

しかし、その本人に裏切られ、彼女を永遠に失うことで、結果ボンドに残されたのがスパイとして生きる道でした。

ボンドにとってヴェスパーとの出会いと別れは危険な諜報員としてではない別の人生へのあこがれを断ち切るために必要なプロセスだったのです。

ヴェスパーの愛がボンドに与えたもの

★直筆サイン◆007 カジノロワイヤル◆CASINO ROYALE (2006) ★ダニエル クレイグ as ジェームズ ボンド ★Daniel Craig as James Bond ★エヴァ グリーン as ヴェスパー リンド ★Eva Green as Vesper Lynd ★豪華2名♪

ボンドと愛し合いながら、結果彼を裏切ることになったヴェスパー。彼女は本当にボンドを愛していたのでしょうか?

そして、彼女の愛がボンドに与えたものとは何だったのか、考察していきます。

オープニングロールに張られた伏線

ポーカーゲームをモチーフにしたオープニングロール。その中で、トランプの女王の顔がヴェスパーに切り替わる瞬間があります。

このとき、彼女の顔が重なるトランプは、ハートのクイーン。彼女がボンドを愛することになる運命を示唆します。

しかし、その対角はスペードのクイーンです。こちらは、彼女がスペード(=剣)を持ち、ボンドにとっての敵にもなることを意味しています。

ヴェスパーの首飾り

ヴェスパーに関わる象徴的なアイテムが、愛の飾り結びのネックレス。

彼女は否定していますが、恋人との思い出の品であることをボンドは見抜いていました。

クライマックスの直前、出かけていく彼女の胸元には首飾りがありませんでした。それまでたとえ着替え中でも身に着けていたにも関わらず…。

それは、彼女の決断が愛のために生きるのではなく、使命のために死ぬことであったためです。

ヴェスパーはボンドを心から愛したからこそ、かつて同じように愛した恋人を裏切れませんでした。責任感の強い彼女であれば、なおのこと。

ヴェスパーには、ボンドと共に過去から逃げても平穏を手に入れられないことがわかっていました。

だから彼女は手がかりを残したうえで死を選びます。結果、ボンドもまた本来の使命に引き戻されることに。

この彼女の死から映画のフィナーレにかけて、スパイとしてのボンドの人生が再構築されていくのです。

007=ジェームズ・ボンド。真の誕生の瞬間はラストに

 The Name's Bond... James Bond (Album Version)
シリーズものとして高い人気を誇る『007』には、ファンにはおなじみのいわゆる“お約束”があちこちに散りばめられています。

例えば、誰もが聴いたことのあるあのテーマ曲。そして、「The name is Bond. James Bond」という決め台詞。

本作『カジノ・ロワイヤル』では、どちらも最後の最後まで登場しません。

それは、彼が葛藤を抱えているうちは、真に007であるとはいえなかったためです。

スパイとして生きることへの迷い、そして愛する女性との出会いと別れ。

それらを経て007=ジェームズ・ボンドとして生きることを決めた瞬間、晴れて007誕生のカタルシスが訪れたのでした。

苦悩があったからこそ輝く、ヒーローの姿

007/ダニエル・クレイグ ブルーレイコレクション(4枚組) [Blu-ray]

日の当たる世界への未練を持ちながら、冷徹なスパイになるべくしてなったボンド。その裏にはひとりの男の苦悩、平和への憧憬がありました。

しかし、払った犠牲が大きいほど、得たものは眩く見えるものです。

ボンドの苦悩の深さに比例し、スパイ007は痺れるほどのカッコよさ、輝きを放ちます。

その二律背反性が、この作品により一層の深みを与えているのではないでしょうか。