本当の理由は複雑に絡み合ったさまざまな思惑、シヴァガミの清廉さや悲哀、そしてそれぞれの王族としての在り方だったのです。
カッタッパの苦しみ
とにかくその勢いとボルテージについて語られがちですが、その下に隠された繊細な心理描写も作品に大きな魅力を与えています。
先に述べたシヴァガミの心理描写も見事ですが、よりその部分を担っているのは最強の奴隷剣士、カッタッパの存在でしょう。
彼の存在はこの映画を魅力的なものにするのに大きな役割を果たしています。
国母シヴァガミの信頼篤い奴隷兵士
まるで息子のように思っていたアマレンドラ・バーフバリを殺すように命じられたカッタッパ。
彼の心の動きはこの映画で最も重要で感情が揺さぶられる部分です。
映画内ではあまりカッタッパの心の奥に踏み込んだような描写はありません。
淡々とした印象を受けますがそれゆえに余計に観客はカッタッパの心の動きが気になるのです。
奴隷という身分にしてここまでシヴァガミの信頼を得たカッタッパ。それは彼の誠実で愚直な性格のお陰なのでしょう。
カッタッパは奴隷の自分が汚れ役を引き受けることが「正しいこと」だと己を納得させたはずです。
全員が自分の思う「正しいこと」をしていたのかもしれません。しかしその結果は誰のことも幸せにしませんでした。
カッタッパの葛藤
カッタッパはアマレンドラ・バーフバリを手にかける際、背後から一突きにします。
勇敢さや愚直なまでの忠誠が身上のカッタッパにしてはありえない殺害の仕方に驚いた方もいたことでしょう。
これはカッタッパの心の揺れの表れだと思います。
アマレンドラ・バーフバリの顔を見るととても殺せる自信がなかったのでしょう。
あえて卑怯な方法をとり、自分は裏切り者であることを自分自身に刻み付けたかったのかもしれません。
このカッタッパの存在があるからこそ、観客は感情を揺さぶられ、長い二部にわたる物語から目が離せなくなるのです。
映画のタイトルは「バーフバリ 王の凱旋」ですが、本当の主人公はカッタッパなのではないかとも思えてきます。
インドの神々や神話について知ればもっと面白く!
物語の舞台となるマヒシュマティ王国は巨大な滝の上に存在し、天井にある神々の国を思わせます。
シヴァ神に保護されたマヒシュマティ王国
マヒシュマティ王国はシヴァ神に保護された国。
シヴァは破壊と再生を司り、ヒンドゥー教の中でも最も重要な三柱の神のうちの一柱です。
マヒシュマティ王国ははシヴァの破壊的側面を反映して軍事大国であるように描かれているのでしょう。
またヒンドゥー教ではブラフマーが世界を創造し、ヴィシュヌがその世界を維持する。
そして来る時が来ればシヴァがその世界を破壊し再生する、とされています。
暴君バラーラデーヴァの圧政によって破壊され、バーフバリによって新たな健全な王国に立ち直るマヒシュマティ王国。
それはまさにシヴァの保護を受けた国にふさわしいものでしょう。
インドラの名を冠した2人のバーフバリ
父アマレンドラ・バーフバリ、息子マヘンドラ・バーフバリのいずれにもインドラの名が含まれています。
アマレンドラは「不死なるインドラ」、マヘンドラは「偉大なるインドラ」との意味があります。
インドラは軍神、英雄神として知られ、まさに神がかり的な強さとカリスマ性を持つバーフバリ親子にぴったりのネーミングです。
終わりに
見終わった後に思わず「バーフバリ!」と叫んでしまうほど世界中を虜にした「バーフバリ 王の凱旋」。
暴君が君臨するに至った本当の理由、そして勢いの中に隠された登場人物の心の動きが見えてきたのではないでしょうか。
その熱狂に隠されたものはなにか、それを深く理解できればこの「バーフバリ 王の凱旋」はもっと面白さを増してくると思います。