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2008年公開の『ウォンテッド』はマーク・ミラーとJ.G.ジョーンズのグラフィック・ノベルを原作とするアメリカのアクション映画です。
暗殺組織の一員であるセクシーな美女をアンジェリーナ・ジョリーが演じています。
芸術的ともいえる“弾丸曲げ”の描写やロシア人監督らしいエッジの効いたアクションシーンはまさに圧巻です。
しかしそれだけではなく、この映画にはアクション映画の枠には収まらない深いメッセージが含まれています。
主人公のウェスリーは、ラストシーンで意味深長な問いかけの言葉を残すのですが、この言葉に秘められた意味は一体何なのでしょうか。
また、ウェスリーの人生における充実感の変化、タイトルである『ウォンテッド』という言葉について考察してみました。
空虚感
主人公のウェスリーには欠落したものがあります。それは“父親の存在”です。
幼い頃に父親を失望させてしまったとウェスリーは感じています。
その為に人生の黎明期に自己の安定した基盤を築くことが出来なかった彼は、確固たる自分を持つことが出来ないまま成長してしまったと考えられます。
上司に嫌がらせをされても、ガールフレンドに傷つけられても何もいえないウェスリーの弱さ。
これには、“父親の不在”が原点にあるのではないでしょうか。
そして更にいえば、父親の不在によってウェスリーが抱える空虚感が、彼の感じる人生の充実度をほぼ0%にしてしまっているのです。
ウェスリーの行動
父親の影
暗殺組織フラタニティの出現によって、ウェスリーの人生は劇的に変化します。
組織の目論見による半強制ではあったにせよ、その中でウェスリーは少しずつ暗殺者として目覚めていくのです。
そしてその影には常に父親の存在がありました。
例えば、紡績工場におけるウェスリーの部屋は以前父親が使っていた部屋であるとか。
また、過酷な訓練に耐えることが出来たのも、父を殺した相手に復讐するという目的があったからこそでした。
映画の前半では、父親の影を追うことがウェスリーの行動における原動力となっているのが分かります。
暗殺者として生きる道を選んだ理由
平穏に生きて欲しいという父親の願いを知りながら、ウェスリーをフラタニティ破壊へと駆り立てたものは何だったのでしょう?
ウェスリーが父のジャケットを見つけて羽織るシーンではまるで父の感触を愛おしむように胸の部分を撫でるのが印象的です。
些細な仕草ですがここには大きな意味があるといえます。
父の着ていたものを身につけ、心を寄せた瞬間に親子は繋がったと見ることは出来ないでしょうか?
父の研究室を見つけ父のやっていた仕事や父の人生ともいえるものに触れ、彼はどんどんプロの暗殺者の仕事というものに引き込まれていきます。
父親の望んだことではないにしろこの時ウェスリーの中に眠っていた暗殺者としてのDNAが覚醒したのです。
運命に委ねる
父から受け継いだものに加え、フラタニティで受けた訓練によってウェスリーは自分が“完璧な武器”となっていることを自覚しています。
その完璧な武器によってフラタニティを殲滅し、全てを運命に委ねることを計画するのです。
ここでいう“運命”とは、暗殺指令に決められる運命ではなく、組織を超越したもっと大きな“運命”ということになります。
真の自己
フォックスの死
映画のクライマックスでもあるフォックスの死のシーンは、その後のウェスリーの心の動きに大きな影響を与えます。