出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B07WDN8ZN9/?tag=cinema-notes-22
韓国の「格差社会」を重層的に描き、独特の世界観で示した鬼才ポン・ジュノ脚本・監督の「パラサイト 半地下の家族」。
ブラック・コメディであり、ホラー・サスペンスであり、メタファーに溢れた作りは社会心理分析的な映画でもあります。
しかしポン・ジュノ監督はエンターテインメントとしての映画、という側面を決して忘れていません。
「面白くて」「怖くて(色々な意味で)」そして「慄然とする」映画、というのが本質ではないでしょうか。
公開されるや、世界中のメディアや映画ファンから大絶賛され、
第72回カンヌ国際映画祭では韓国映画初となるパルム・ドールの受賞を果たした。
第92回アカデミー賞では作品賞を含む6部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の最多4部門を受賞した。
非英語作品の作品賞受賞は史上初めてのことである。
また、アカデミー作品賞とカンヌの最高賞を同時に受賞した作品は『マーティ』(1955年)以来、65年ぶりとなった。
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/パラサイト_半地下の家族
と、映画史に残る作品となったのです。
基本的には「起承転結」がはっきりとした分かりやすい作り。
一方で娯楽作の体裁を取っていながら観念的なメタファーを多用しているため「言わんとする所」を読み解こうというファンの挑戦も続いています。
ここではたくさんあるメタファーの幾つかを読み解きながら、ポン・ジュノ監督が作品をどう締めくくりたかったのかを示すラストシーンの意味を考えます。
またギテクが凶行に及ばざるを得なかった真の動機とは何だったのか、謎の多いパーティー時のギウとダソの行動にも迫ってみましょう。
「上」と「下」
この映画をより楽しむ(知る)ためには韓国市民の暮らしの現状を予習しておくと良いでしょう。
韓国の現状
韓国はよく知られるように超高学歴社会。また大企業へのルートである一流大学への道は超難関。
貧乏家庭は塾に行けない→一流大学に行けない→中小企業に就職→非正規雇用と貧富の固定化が加速度的に進んでいます。
大企業が非正規雇用を増加させ繁栄する一方、中小企業はどんどん潰れ、自営に転じたサラリーマンも苦境に立たされます。
その様子は本作でも描かれていて、ギテク(ソン・ガンホ)はかつてプロドライバーだったのですが、自分で商売を始めます。
フライドチキンと台湾カステラの店を営業していましたが、いずれも長続きせず失業、ついには半地下生活に転落したのでした。
ギテクの子供らもお金もないこともあり大学へはなかなか行けない状況が示されています。
さらにソウルの家賃は地価の高騰で東京をも凌ぐともいわれるほど。ソウル市民は郊外へ郊外へと家を求めます。
貧困層は80年代にビルの規制緩和で大量に出現した「半地下」など劣悪な住空間に住み続けざるを得ないのです。
今や韓国の貧富の「格差」は日本人の私たちが想像する以上だ、ということを念頭において観るとより深い興趣があるでしょう。
意識される「上」と「下」
ポン・ジュノ監督は富裕層と貧困層の見え方を、さまざまな表現を使って表現しています。代表的なものが「上」と「下」でしょう。
どなたでも気がつくのが、ギテク一家の半地下(「下」)の暮らしに比べ、大富豪パク一家の家は小高い丘の上の家(「上」)です。
ギテク一家の欲しいものは「上」にあるのです。
冒頭、ギウとギジョンがWi-Fiの電波を探して、スマホを上にかざすシーンがあります。
これも貧困層が欲しいものは「上」にあるという示唆に他なりません。
さらに極めつけはギテクらがパク家から逃げてくる時に降る雨と洪水。ひたすら下に下にと流れます。
これはパク家から逃げてきたギテク一家の下りの人生しかない彼らの悲しみのメタファーでしょう。
かつ「格差社会」の不条理は全て「下」に流れて溜まるということを水浸しになった半地下の家と共に示していると読めるのです。
階段と家の構造
豪雨の中、パク家から逃げ帰る時のシーンもそうですが、ポン・ジュノ監督は階段を上手く取り入れています。
パク家に至る階段、パク家の2階への階段、地下への階段、そうした階段を登ったり降りたりするシーンに人物の心理や立場を反映させています。
映画ではギテク一家は階段を下るのみ、パク一家は上る映像しか使われていないのが象徴的です。
さらにギテク一家が寄生してからのパク家の棲み分け構造は決定的なものです。
2階にダヘやダソンの部屋、そしてバスルーム、主寝室、つまり富裕層のエリア、その下の1階と地下貯蔵庫が寄生するギテク一家の貧困エリア。
さらにその下に「完地下」の住人たちが潜む「極貧核シェルター」と、貧富の格差を可視化しています。
カメラワークにも注目
また、カメラの方向にも注目すべきです。ギテク一家を捉えるときは下から上へのいわゆる「アオリ」ショットが多用されます。
一方でパク家でのパク一家を捉えるカメラは「上から下」。いわゆる「上から目線」が目立ちます。
さらに、パク家の人々は目線から下のことには興味がない、とするショットもありました。
それはギテク、ギウ、ギジョンがパク一家の急な帰宅でテーブルの「下に」隠れるところです。パク夫婦はまったく気が付きません。
そもそも自分たちより低い目線にあるものには興味がない、そんな「富裕層」のメンタリティーを強烈に印象付けています。
「山水景石」
ギウがミニョクからもらった「山水景石」。お金持ちが棚にかざるような石です。
ギテクが象徴的だ、と語ります。
何の象徴だったのか
この石はラストシーンにも、物語の締めくくりを示す重要な役割を担って登場します。
物語の間ギウはずっと肌身離さずこれを持ってます。
ギウは石を貰った時、この石を「幸運をもたらす石」と信じました。