洪水に見舞われた半地下の家から、まずこの石を持ち出すシーンで、ギウのこの石に対する執着が決定的に描かれます。
しかし、ギウは「完地下の住人」グンセに、この石で頭を酷く殴られ瀕死の重傷を負うことを考えると、「不幸の象徴」ともいえます。
ギウが石を地下貯蔵庫に落としてしまったことから不幸が始まったのかもしれません。(ここも階段が上手く使われています)
ギウの「運命」の象徴
洪水後の避難所の体育館でギウは父ギテクに、この石が離れなくなったように感じると語ります。
そしてその後の悲劇。
「幸福の象徴であったと思った石は、結局不幸をもたらしたに過ぎなかった」
つまりギウの「運命の象徴」「ギウそのもの」であったと読み取れます。では彼は何故ラストでこの石を川へ戻したのでしょうか。
それについてはもう少し後で考察することにしましょう。
「計画」
「計画」はこの映画の最も重要なキーワードのひとつです。
いい大学に入り、大企業に就職し、良い家の娘を嫁に貰い、子供が出来て、いい車を買い、家を買って幸せに暮らす。
かつてはそんな「計画」通りに人生を歩める可能性もあったのに、今やいくら頑張ってもそうはいかなくなっている。
そんな状況を描くためのワードです。
父ギテクの過去
映画の冒頭から「計画」という言葉は意識して盛んに使われています。ギテク一家の母チュンスクも使います。
そして一番口にするのが父ギテクです。結局彼は、計画など立てないほうがいい、人生は計画通りいはいかない。
ならば最初から計画なんて立てないほうがいいのだという考えに至ります。
そこには彼の過去があります。プロドライバーをやめ、フライドチキンや台湾カステラでも失敗、ピザの箱を組み立てればミスばかり。
彼の人生で計画通りに事が運んだ試しなど無いのです。そして父を尊敬しつつ「反面教師」的に見つめているのが長男ギウなのです。
しかしギテクは息子ギウの「計画」に期待を寄せてもいるのです。
ギウが父ギテクから受けた影響
一生懸命生きてもどうにもならない。ならば自分たちは真っ当な「計画」している人たちに「寄生」することを「計画」する。
最初にパク家に寄生を始めたのはギウだったことは象徴的です。
考えてみると、ギウはギジョンに完璧なニセ大学合格証を作らせてパク夫人を騙し、さらにギジョンは色仕掛けで運転手を追い出します。
また家族共謀して家政婦の「桃アレルギー」を上手く利用し追放に成功するなど結構「頭脳派」であることが明らになります。
ここまで緻密に「計画」を練って実行する賢さがあれば、それを真っ当な就職活動に使えよ、と観客は思うことでしょう。
しかし、それが叶わない今の韓国の「格差社会」が抱える「絶望」の病理が潜んでいることが提示されているのです。
彼らの成功させた「計画」とは、ずる賢く寄生するための悪知恵であり、人生を真っ当な成功に導くものではありません。
一口に「計画」といっても富裕層と貧困層では、達成した果てに求めるものが全然違って来てしまっているのです。
一方でパク家の行動が実は極めて思いつきであることが、ギテク一家の計画的行動と対比され、アイロニーに溢れた表現にもなっています。
それが今の韓国なんだよ、とポン・ジュノ監督の声が聞こえて来そうです。
このあたりまでギテク一家の「計画」は順調のように見えます。
「雨」
これも、意味深いメタファーとして使われています。「下層の人間」はいつも雨に濡れています。雨が家になだれ込んで来ます。
パク家から逃げてきたギテク、ギウ、ギジョンは豪雨でびっしょり。
物語の転換点なる、追い出された前家政婦が夜パク家のインターフォンを鳴らすときも、外は大雨です。
一方、ダソンの誕生日祝にキャンプに出かけたパク一家は豪雨による川の増水で帰宅しますが、雨に濡れることはありません。
さらに、自分の家のある丘の上から流れていく雨で下にある街が大変な水害にあっていることなど全然知りません。
自然現象であるはずの雨すら「富裕層」と「貧困層」を分け隔てするのか、そんな不条理が伝わってくる設定です。
「臭い」
この映画の大きなポイントの一つとなっているものが「臭い」です。
パク家に寄生を始めた運転手ギテクと家政婦チュンスクが、同じ臭いがする、と最初に気がついたのはパク家の長男ダソンでした。
そのうちパク氏も車の中が、切り干し大根の臭い、地下鉄の中の臭いがすると言い出します。
ギテクは風呂に入って洗ってみますが、落ちません。それは「半地下生活で染み付いた貧乏人の臭い」。
「格差」を表現するものに「臭い」を持ってきて、後半の大事件の大きなファクターに据えたポン・ジュノ監督の脚本の素晴らしい着眼点です。
父の凶行の真意とは
第三の家族が出現します。その男は地下の貯蔵庫のさらに下に掘られたパク一家も知らない核シェルターに潜んでいました。
パク氏の前の持ち主の時期から借金取りから逃れるために住んでいる前家政婦ムングァンの夫グンセです。
ギテク一家よりも先輩のパラサイトがいたのです。
下の下
グンセはパク氏の会社に勤めていたことがあるようで、パク氏をリスペクトしています。
この「完地下」の夫婦の存在に驚くギテク一家。文字通り下には下がいたわけです。
ギテク一家が韓国下層階級の絶望の象徴と見せておいて、さらにその下がいるという驚愕の設定。