孤独で暗い世界に生きていた誠人と静流ですが、ある出来事をきっかけに「光」の世界へ誘われます。
それが「光」の象徴としての富山みゆき、誠人の意中の人です。彼女がある時誠人を学食の友達の輪に入れました。
演じるは黒木メイサ、その日本人離れした圧倒的な華と美貌は正に静流とは正反対の「光」を神々しく放っています。
性格も凄く友好的で差別や偏見などもないので、もはやただの造形美を超えた強靱な美は二人にとって非常に眩しいものでした。
みゆきとの交流は二人の運命を大きく変えていくことになり、「ただ、君を愛してる」の物語がここから動いていくのです。
「光」に近づいていく二人
誠人とみゆきは打ち解けて仲良くなっていきますが、その分静流の心の「闇」もまた深くなります。
よくある三角関係ですが、不思議なことに静流とみゆきはあっさり打ち解けてしまいます。訝しむ誠人に静流はこう言うのです。
好きな人が好きな人を好きになりたかっただけ
引用:ただ、君を愛してる/配給会社:東映
凄く子供じみた言い分ですが、この衝突を機に誠人も静流も段々柔らかく明るくなっていきます。
それは二人が「闇」から「光」に近づいている証ではないでしょうか。みゆきの出会いは二人にとってそれだけ革新的であったのです。
「光」と「闇」が混じるキス
前半のクライマックスである「ただ、君を愛してる」屈指の名シーンとして有名な誠人と静流のキス。
非常にゆったりとロングで撮られており、凄く美しい森の風景と木漏れ日と影のバランスも絶妙な塩梅です。
ここで眼鏡を外した静流の顔に誠人は初めて「大人の女性」としての色気を感じます。みゆきのような眩い「光」があるのです。
しかし、直後静流は凄く意味深な質問をぶつけます。
今のキスに…少しは愛はあったかな?
引用:ただ、君を愛してる/配給会社:東映
初めてのキスで幸せな筈なのに、どこか「闇」が感じられます。その正体が後半で明らかとなるのです。
静流の失踪がもたらしたもの
強制リセットされたゲームのように、突然謎の失踪を遂げた静流。予想外の急転直下が生じてしまいました。
この静流の失踪は果たして何を意味するのでしょうか?
陰極まる誠人
誠人は失意のどん底に叩き落とされ、またもや深く暗い「闇」の世界に引き戻されてしまいます。
みゆき達学友のお陰で何とか立ち直ったものの、誠人にとっては陰極まる程の絶望でした。
しかし、これはあくまでも誠人が真の「光」を、そして「愛」を手にする為に必要な試練だったのではないでしょうか。
誠にとってみゆきはもう意中の人ではなくなり、「恋」の段階は通過して静流との「愛」に目覚めるときが来たのです。
ニューヨークという場所の意味
あらゆる映画作品で舞台として用いられるニューヨーク。「ただ、君を愛してる」ではどのような場所だったのでしょうか?
2年後、これまた突然の静流からの手紙でニューヨークへ誠人は足を運び、驚愕の事実を知ることになります。
心待ちにしていた筈の静流との再会、しかし誠人の前に現れたのは何と静流と半年前に再会していたみゆきだったのです。
そこで待ち受けていた残酷な現実とそこから氷解していく静流という女性の本質。
本作のニューヨークは誠人に訪れる「真実」の街として、正に「光」と「闇」を併せ持った特別な場所だったのでしょう。
静流の病気がもたらしたもの
誠人を更なるどん底に陥れた静流の病気。それは遺伝による先天性のもので、成長と共に進行してしまうとんでもない難病だったのです。
ここで不思議なのは静流の「闘病」「死」が画面上に一切描かれていないこと。
つまり静流の病気、死そのものには決して重きが置かれておらず、大事なのはあくまでも静流の死を受け止める誠人とみゆきの反応です。
ここで初めて誠人は静流がずっと抱えていたコンプレックスの正体、そして静流という女性の本質を理解するに至ります。