この姿に復讐者と復讐される側は対立項ではないということが映し出されているのではないでしょうか。
ロウソク=血
遺族とペクの遺体を片付ける際、その血をバケツに移すシーンがクローズアップされした。
バケツいっぱいに溜まった血はクムジャが灯していたロウソクのロウとイメージが重なります。
物語の前半ではロウソクのカットが度々クローズアップされていました。
しかし、クムジャがロウソクを灯す理由は特に言及されていません。
このバケツの血が写されることで、彼女の復讐への揺るぎない心を表すものだったということが読み取れます。
ロウソクのロウを見ることで、彼女は長きにわたる復讐心を失わずにいれたのでしょう。
死体を埋めた時のクムジャの心境
クムジャの言葉にならない心境を表したもう1つのシーンがペクの死体を埋めるシーンです。
ここでのクムジャの表情からはこれまで度々映し出されていた復讐というものの複雑さを感じさせます。
復讐を終えた安堵感であり、生きる目標を失った喪失感でもあるでしょう。
さらには殺された子供達への悲しみ、復讐を終えても彼らの命は戻らないという虚しさ。
自分が捕まったせいで被害者を増やしたことや遺族を復讐に駆り立てた罪悪感。
そして復讐したとしても失われた自分の人生は取り戻せないということ。
そんな一面的には捉えられない復讐というテーマを苦々しい笑顔を浮かべるイ・ヨンエの名演が引き立てているシーンです。
白いケーキに顔を沈めた理由
物語の最後にクムジャは白いケーキに顔をうずめます。ここでの彼女の心境とはどんなものだったのでしょうか。
消えた復讐心
出所時の豆腐をイメージしたケーキでしたが、クムジャは出所時に豆腐をかじることなく地面に落としていました。
復讐を誓っている自分は白い心ではないというメッセージだったといえるでしょう。
しかし、その復讐を終えたことで当時の復讐心はなくなっています。
だからこそ、ようやく白いケーキに触れることができたのです。
真っ白になっていない自分
彼女は復讐を終えれば真っ白な心になれると思っていたのかもしれません。
しかし、彼女は復讐を終えたことで真っ白になれたとは感じていないのでしょう。
ペクを埋める際に見せた表情のとおり、心の中はすっきりとした気持ちになれていません。
だからこそ現実を嘆いて、すがるように顔を埋めて泣いてたのではないでしょうか。
さらに、真っ白でない自分はケーキを差し出してくれたジェニーと一緒にはいられないという悲しみもあったはずです。
様々な対比表現
この作品は様々な対比を象徴的に映し出すことで「復讐」というテーマに迫っていました。
象徴的に描かれる対比表現
アイシャドウの赤と豆腐やケーキの白、クムジャの美しさと復讐者という二面性、親切さと残虐さ。
作中には不自然なほどに強調された対比が散りばめられていました。
そして復讐は正しいことなのか、間違ったことなのかという問題も同様です。
クムジャ自身も遺族達も、その問題の答えを探し続けました。
復讐を贖罪と対比
しかし、この作品では復讐は最終的に善悪の対立項では成り立たないことを表現しています。
クムジャとジェニーという2人の対比から分かるように、復讐の対比として贖罪が存在しているのです。
人間にとって許しというものは善悪だけの判断ではないように、復讐も善悪では捉えられないというメッセージ。
だからこそ、この作品は復讐のリアルさを描いたものになっているのではないでしょうか。