この曲はドルジにとって大切な思い出を蘇らせてくれる特別な存在の曲です。
ドルジが椎名に声をかけたのは、「風に吹かれて」が何よりも大切な曲で、淡々とした毎日を送るドルジの心の支えだったからといえます。
なのでドルジは、椎名に声をかけずにはいられなかったのです。
昔の自分と似ていた
ドルジは最愛の恋人、琴美と尊敬する存在であった河崎の無念を晴らせずにいました。
そんな中、椎名の歌を聞いて孤独や悲しみから一気に解放されたのです。
「風に吹かれて」はドルジにとって特別な意味を持つ曲だといえます。
琴美や河崎がディランの声を神様の声だと言ったように、ドルジにとっても神様の声だったのです。
ドルジが椎名に声をかけたのは、椎名が自分にとって救いを与えてくれる神様のように映ったからだといえます。
そして、そんな椎名の姿は昔の純朴だった自分を見ているような風にドルジの目には映ったのです。
なので、椎名に声をかけずにはいられなかったといえます。
本屋襲撃のチャンスだと思った
琴美と河崎の死を受け入れられず、一人部屋に閉じこもるドルジ。
二人の無念を晴らすにはどうしたらいいのか、という事も考えていました。
琴美と河崎は亡くなったのに、犯人の一人である江尻が生きている事に、そして普通に生活をしている事にドルジは憤りを感じていたのです。
椎名の歌声を聞いた時、今こそ江尻に復讐を決行するチャンスだと思ったのでしょう。
椎名の歌声が神様の導き、ゴーサインのように聞こえたのです。
なので身分を偽り、椎名に声をかけたといえます。
神様を閉じ込めた真意
椎名とドルジはラストで、ボブ・ディランの「風に吹かれて」が流れるラジカセをコインロッカーに閉じ込めました。
これにはどういった真意があったのか?そこに迫っていきます。
罪から解き放たれたドルジ
ドルジは江尻を殺してはいないものの、“鳥葬”として木に括り付けていました。
これは立派な犯罪行為ですが、ドルジは江尻を殺すつもりはなく、ペットが味わった恐怖や琴美が受けた痛みを江尻にも味合わせたかったのです。
麗子の自首を促す言葉に片言の日本語で答えたドルジ。
この時、ドルジが自首をしようと考えていたかは観客の想像次第となっています。
無愛想で無表情の麗子が笑ったのは、“罪なんて償っても償わなくても、あなたらしいわ”と思ったからでしょう。
そして、この時麗子が笑顔を見せたのは麗子の感情の解放でもあったのです。
その笑顔にドルジの感情も救われました。
椎名の優しさ
椎名はドルジにまた戻ってくるのか、と聞かれた時、何も答えませんでした。
これは、もしかしたらもう戻って来れないかもしれないという椎名の意思の表れといえます。
コインロッカーにラジカセを閉じ込めたのは、椎名のドルジへの元気でいてね、という彼なりの最大の優しさなのです。
麗子が笑顔を見せたように、椎名は“君の気持ちは痛いほどわかるよ”と思ったからこそ、コインロッカーに歌を閉じ込めて神様に見てみぬふりをしてもらおうと提案しました。