そして正男が怪我をした菊次郎の為に薬局に走るシーンでは、踏み潰されたパンダのお面が登場しました。
この踏み潰されたお面は菊次郎の“死”を意味しています。
ヤクザにボコボコにされ、生死を彷徨った菊次郎ですが、正男の前に戻ってきた時は新しい菊次郎として生まれ変わったのです。
この時菊次郎の着ている服も白と黒で、パンダを連想させるものとなっています。
風車の意味
風車が回る=物事が好転するという、非常に特別な意味を持つ縁起物としてここでは回る風車が登場します。
ヤクザにボコボコにされ一度は生死の境を彷徨った菊次郎ですが、“死”と共に“菊次郎がちょっと前に進んだ”という含みを持たせた表現なのです。
そしてこの一件で正男と菊次郎の関係もより深まったといえます。
美しいキタノブルー
北野武監督の映画には“キタノブルー”と呼ばれる独特な美しい青色の表現方法が用いられています。
この“キタノブルー”は「菊次郎の夏」の中でも鮮明に描かれているのです。
正男と菊次郎が海辺を歩くシーンで、その表現が明確に使われています。
正男の先を歩く菊次郎の後ろには微かにしか足跡が残っていません。
しかし正男と手を繋いだ瞬間、菊次郎の足元にもくっきりと足跡が現れるのです。
“キタノブルー”はしばしば“死”を意識した時に表れる表現技法といえます。
ここでは正男が菊次郎の手を握った事で、菊次郎の死を食い止めたのです。
海や空の青さが際立つ表現技法といえる“キタノブルー”は深い意味合いを持ち、北野武監督作品には欠かせないものとなっています。
久石譲の奏でる音楽
北野作品で欠かせないのは、何といっても久石譲が紡ぐ美しい音楽でしょう。
「菊次郎の夏」でも「Summer」というタイトルの非常に繊細なピアノ楽曲が使われています。
この音楽は悲しい場面では悲しさを一層引き立て、コミカルなシーンではどこか物悲しげな雰囲気を漂わせることに非常に役立っているのです。
美しいピアノの旋律がこの「菊次郎の夏」という映画の良さを一層際立たせています。
まとめ
北野武監督の作品といえば暴力的な描写が多い映画のイメージがありますが、「菊次郎の夏」はそれとは違った魅力を持つ感動作です。
バス停での正男と菊次郎の滑稽なやり取り、等々紹介しきれなかったエピソードにもぜひ注目して観て頂きたい映画となっています。
北野武監督が紡ぐ独特な世界観を持つこの「菊次郎の夏」。