出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B07ZWSG4LJ/?tag=cinema-notes-22
才人タイカ・ワイティティがナチス・ドイツによるユダヤ人弾圧にまつわる物語を大胆な翻案で脚色して監督した「ジョジョ・ラビット」。
原作はアメリカのクリスティーン・ルーネンズの「Caging Skies」という小説です。
本来暗い原作小説をタイカ・ワイティティはコメディとファンタジーという味付けで大胆な脚色をしました。
その結果、
第92回アカデミー賞では(中略)脚色賞を受賞
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/ジョジョ・ラビット
したのでした。
世紀の一大悲劇をコメディとファンタジーの要素をもって描くことは1つ間違うと不謹慎との非難を浴びる恐れがあります。
それをタイカ・ワイティティは見事に「愛の物語」に昇華することに成功しました。
だだ、辛口の評価をする人も少なくないことも確かです。しかしそれを凌駕する高い評価を獲得している秘密はどこにあるのでしょうか。
主要な登場人物のキャラクターに与えられた役目に注目しつつ、母がエルサをかくまった真意について考察していきましょう。
またラストでジョジョがヒトラーを窓の外に蹴飛ばす行為は何を表現しているのか、そこに至るジョジョの心の動きも大きなポイント。
ビルドゥングス・ロマン(自己形成小説、成長小説)としても観どころの多い佳作「ジョジョ・ラビット」の世界に迫ります。
タイカ・ワイティティの狙いを整理しておこう
タイカ・ワイティティは本作を制作するに当たって映画が持つ狙いを極めて明確にしています。
作品の主張
映画のフライヤーの裏面の左下にこんな言葉が手書きでデザインされています。
“An Anti-Hate Satire”(アン・アンチ・ヘイト・サタイア)。「反ヘイト風刺劇」とでも訳せるでしょう。
これこそタイカ・ワイティティが作品の中で主張したかったこと。ナチを風刺しながらの反ヘイト・愛と寛容の映画なのです。
そのベースを分かっておくと、この映画はとても理解しやすく一層心に沁みて来るのです。
私が第二次世界大戦を描くなら、斬新でなければ意味がない。
引用:https://blog.foxjapan.com/movies/jojorabbit/news/
その志が、子供目線で、なおかつコメディとファンタジーを融合させたドラマに仕上げました。
人類史上最も暴力的で無秩序な時代を妙なコメディにしたいわけじゃない。
下手をすれば”戦争を笑いのネタにした”と思われる。
コメディに埋もれさせず物語や大切なメッセージを前面に押し出した。
“広めるべきはヘイトじゃない。愛と寛容だ”
引用:https://blog.foxjapan.com/movies/jojorabbit/news/
タイカ・ワイティティは、この映画を通して「愛と寛容」を訴えたかったことは明確にされています。
その手段として彼はコメディとファンタジーを使っての「優しさ」の表現を選んだのでした。
制作上の工夫
上記のような意図を持った作品にするために、ワイティティ監督は、様々な映像的工夫を凝らしています。
まず、カメラの目線です。基本的にジョジョの目線であり(母の靴を見るときが象徴的)、画角が狭く仕立てられています。
しかし、映画の後半、外での戦闘シーンは画角が大きく取られ、ジョジョの心境の変化を表現します。
さらに衣装や部屋の中のインテリア、小道具の色彩を鮮やかにすることにより、ファンタジーの味付けを演出。
戦闘シーンでは一気に色彩が失せるのも効果的。
一方で街角の戦闘シーンは極めてリアルに造られていて単なるファンタジーではないワイティティの意気込みを感じさせます。
音楽についても捻った工夫がみられます。
冒頭のドイツ語によるビートルズの「抱きしめたい」を始め、ルイ・オービソンといった現代のロックを使っています。
これによってテーマに今日性をもたせると同時に、暗い時代の物語をポップに演出しています。
コメディは観客を寛大にしメッセージを伝えやすくする。
引用:https://blog.foxjapan.com/movies/jojorabbit/news/
上記のワイティティの言葉に彼の本作に懸ける最大の想い・目的を感じ取ることができます。