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「パフューム ある人殺しの物語」はトム・ティクヴァ監督によって製作されました。
原作は、パトリック・ジュースキントのベストセラー小説「香水 ある人殺しの物語」です。2006年に映画化、翌年日本で公開されました。
主人公は18世紀のパリの貧困街出身の青年ジャン・グルヌイユ(以下、ジャン)。彼はその驚異的な嗅覚故に数奇な運命を送ります。
本記事はジャンが人を殺す理由、香水の13番目のエッセンス、処刑シーンの意味に迫ります。
ジャンが人を殺す理由
人殺しのきっかけ
ジャンが人を殺すきっかけは果実を売る少女との出会いです。背後から夢中で彼女の匂いを嗅いでいたシーン。
ここでの焦点は、ジャンが計画的に殺人を犯した訳では無いということです。
人の気配を感じ、咄嗟に彼女の口を塞いだ行為は冷静な判断が伴っています。
彼は良い匂いを嗅ぎたいという衝動に駆り立てられた一方で、理性もありました。
女性の匂いを嗅ぐ行為に対する背徳感があったからこそ、窒息死させたのです。
善悪の価値観が倒錯していた
なぜ彼は彼女を口説きもせずに、「匂い」への執着とともに殺人を犯してしまったのでしょうか?
乳幼児期から孤児院らしき場所で育ったジャン。彼の周囲には奴隷商の老婆と革職人の親方がいました。
彼はまともな教育や人とのコミュニケーション術を身に付ける機会が限られていたのでしょう。
彼女と親密になれば、匂いをいつでも嗅ぐことができるということまで考えが及びませんでした。
罪悪感よりも彼は「香りを保存し永遠に嗅ぎたい」という本能的欲求に従います。
彼女の衣服を剥ぎ取り匂いを嗅いでいたジャン。そして、彼は匂いが消えていくことが理解できず呆然とします。
なぜ彼は本能に従ったのでしょうか。
彼を導く「人生の師」がいなかった
ジャンには生き方や善悪を教えてくれる人がいませんでした。教会に通っていたという様子も見えません。
ジャンは「究極の香水作り」の遂行に忠実だったと考えることもできますが、どんな理由があれ人を殺す事は許されません。
もし教養ある香水商の「師」のもと、その才能の開花をさせられたら違った生き方が出来たでしょう。
匂いと個性:洞窟での体験から欲求の変容
衝動的な人殺しに計画性が生まれた大きな契機が存在します。それはグラースに向かう途中で立ち寄った洞窟の体験です。
ジャンは無臭空間の洞窟で安らかな岩の香りに包まれます。いわゆる無我の境地です。
一方で、自分自身が「無臭」であることに気づいたのもこの時です。
そのことに対して彼は愕然とします。なぜジャンは「愕然」としたのでしょうか?
これはアイデンティティの問題です。類稀なる嗅覚を持つ彼にとって「匂い」は人生の全てでした。
そんな彼にとって「匂い」が無いことは自分自身が存在しないことを意味します。
雨に打たれながらジャンは「果実売りの少女が自分に気がつかなかった」ことを思い出しました。
そして、その原因は自分が無臭だからと考えても不思議ではありません。
この時からジャンは「人々に己を認めさせたい」と願います。このような欲求変容はマズローの欲求5段階説で説明できるでしょう。
第1段階の「生理的欲求」から第3、第4段階の「社会的欲求」、「承認欲求」に基づく動機に変わったということです。
グレースでの冷侵法の実験や油脂吸着法による香料の抽出の際は計画的な犯行でした。
良い香りを抽出する為に女性を無抵抗状態にする必要があったのです。
究極の香水ー13番目のエッセンスとは?
エジプトの伝説の香水
ジャンは香水師ジュゼッペとの会話の中で究極の香水作りのヒントを得ました。