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『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』等奇抜な世界観と物語が売りの鬼才・ティム・バートン監督の自伝ともいうべき逸品です。
ダニエル・ウォレスのベストセラー『ビッグフィッシュ – 父と息子のものがたり』を原作に持ち、第76回アカデミー賞作曲賞も受賞しています。
また、2013年にはアメリカのシカゴ、ブロードウェイで舞台として上演され、日本でも2017年に上演されるほどの人気作です。
父子の対立と和解をテーマにした本作は父エドワードの「大ボラ話」の回想シーンと現実で病に伏せ死父を受け止める息子とが交錯しながら進みます。
そんな父の大ホラ話を嫌うジャーナリストのウィルはどうしてエドワードの話を語り継ぐようになったのでしょうか?
そしてまた、エドワードが自身の大ホラ話を最後まで続けたのか、終盤で明らかとなる伏線の整理も兼ねて考察していきます。
現実と幻想
ビッグ・フィッシュを語る上で外せないのは「現実と幻想」です。様々な形でこの二つの対比が用いられています。
ここではまず本作のベースとなっている二つの対比構造の基本を読み解いてみましょう。
「生」の回想シーンと「死」の現在シーン
映像演出として目に付く「現実と幻想」の対比は回想シーンと現在シーンの違いに見て取れます。
回想シーンでは色鮮やかなファンタジー演出が用いられる一方、現実のシーンはやや暗め、地味目なトーンという対比も鮮やかです。
ティム・バートン監督お得意の演出手法ですが、本作の場合はそれが「生と死」の対比にもなっています。
回想シーンは若かりし頃の生き生きとしたエドワードの話なので生命力に溢れ、風景や服装も色鮮やかでえもいわれぬ感動です。
スペクターという街での裸足での生活、身長5メートルを超える巨人との邂逅、お花畑でのサンドラとの結婚式等々は「生」の象徴でありましょう。
一方現実世界ではエドワード自身の「死」がラストに向けて大々的に描かれています。
この「生と死」が根っこにしっかりあることが何よりも本作の印象を深くしている理由ではないでしょうか。
現在と過去の対比に見る「記憶の美化」
「生と死」の対比はまた「現在と過去」、即ち「現在を生きるウィル」と「過去に生きたエドワード」の対比でもあります。
懐古主義とも取れかねない描写ですが、話を盛っているのとは別に「記憶の美化」も少なからずあるのではないでしょうか。
人間の脳は無意識の内に「嫌な思い出」を「良かった思い出」に都合良くすり替えるように出来ているのです。
エドワードも自身の話を語る中で知らず知らずの内に昔の思い出を都合良く美化してきたのでしょう。
特に過去のシーンで明らかに他の者にはない輝き、オーラを纏って映っていたサンドラがその象徴です。
数え切れないエドワードの思い出の中でも妻となったサンドラとのそれは特別であった故、尚その美化に拍車がかかっています。
幻想=エドワード、現実=ウィルに見る作風の変化
そして何よりビッグ・フィッシュにおける「現実と幻想」の構造は父=エドワードと現実=ウィルの対比という所に落とし込まれていきます。
本作を手がけるにあたって、実はティム・バートン監督の父がお亡くなりになったことが最大のきっかけであったことは有名な話です。
この対比が何を意味するのか?それはもはやティム・バートン監督の中で「現実」だった父が「幻想」に変質したということでしょう。
また「父の死」という辛い現実が目の前に立ち現れたことで、幻想ばかりを描いていいのか?という疑問・葛藤も生じたのかもしれません。
本作以前と本作以後のティム・バートン監督作品の作風の違いに「死=現実」という暗黒面が描かれるようになったことが挙げられます。
それはとりもなおさず本作がティム・バートン監督作品の歴史の中で大きな分水嶺になっていることの証左ではないでしょうか。
ウィルから見たエドワード
ビッグフィッシュを語る上でやはり一番語られるべきはやはり息子・ウィルから見たエドワードでしょう。
父の大袈裟な作り話に苛立ちを隠せず、さりとてその感情を露骨にぶつける程子供でもない複雑な心境のウィル。
そんな彼は物語の中で徐々にエドワードの話を理解し、受け入れるようになっていきます。
ここではどのようにしてその心境の変化に至ったのかを考察してみましょう。
「真実」を知る恐怖
ウィルが父の大袈裟な作り話に苛立ちを隠せなかった理由、その根っこにあるものは「真実」が見えないからでした。
ジャーナリストとして真実を追い求めるウィルにとって、父のそうした態度はとても不可解なものに映ったのでしょう。
そのことは後半改めて次の台詞で語られます。
氷山を例にとれば見える部分は10%、90%は水面の下だ。それが――父さんなんだ
引用:ビッグフィッシュ/配給元:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント
ウィルの引っかかりは作り話を通して語られる父親像が見せかけだけではないか?ということだったのです。