おどろおどろしい姿と術を使う西の魔女ですが、決してその性質が悪いものではありません。
例えば魔術を使う前に、彼女は子どものマスベス君を遠ざけたり、イカボッドに危害を加えないよう自身の手を鎖に繋いでいます。
西の魔女は、自分や姉の操る魔術が忌避されるべきものだと考えていたのではないでしょうか。
そしてそれが、やがて滅びゆくものであるとも。
魔女である彼女は、死人の木の場所をイカボッドに教えたために姉に殺される未来も予見していた可能性もあります。
それでも彼に解決のヒントを与えたのは、彼女が自分たちの魔術は消えていくのが正しいと考えていたためではないでしょうか。
生き残った魔術
しかし、必ずしもすべての魔術が葬り去られたわけではないようです。
生き残ったイカボッド、そしてカトリーナにはそれぞれまじないとの密接なつながりがあります。
イカボッドを救った“まじない”
神や魔術を信じていなかったイカボッド。ですが、彼の幼い頃の幸せな記憶は、母親のまじないと共にありました。
母の死を目にしたことをきっかけに、不可思議なものへの関心を恐怖で閉ざしてしまっていたのです。
クライマックスシーン、そんな彼の命を救ったのはカトリーナが彼にお守りとして贈ったまじないの本でした。
彼がその後、魔術やまじないに対しての見方を変えたかどうかは描かれていません。
ですが、邪悪な魔女が去ったことにより、恐怖の奥にあった母を愛し愛された記憶は甦ったのではないでしょうか。
カトリーナのまじないと愛
カトリーナはしばしばまじないを使おうとしています。そのためにイカボッドから、一度は事件の黒幕だと疑われてしまいました。
しかし、彼女がまじないを使うのは愛する人を守るため。そしてそのまじないも、愛する母から教わったものです。
カトリーナにとってのまじないは、彼女の愛と深く結びついています。
彼女のまじないは魔女たちの魔術のように目に見える効力を発揮するものではありません。
しかし純粋な心でまじないを信じる彼女はイカボッドと共に生き残り、最後には村を出て新たな世界へと旅立ちました。
愛あるまじないは消えない
ふたりの母親には共通点があります。どちらもまじないの力を信じ、子を心から愛していました。
イカボッドの母は魔女の嫌疑をかけられ、そしてカトリーナの母は魔女の手によってその命を落としてしまいます。
しかし、彼女たちの愛とまじないは、確かにイカボッドとカトリーナの中に生き続けていました。
ふたりが生き残ったことは、すべての魔術やまじないが悪ではなく、善なるものは時代を越えて受け継がれていくことを表しています。
新しい時代を迎えるということ
一連の事件の終結を経て、カトリーナとマスベス君を連れ雪の降るニューヨークの街に帰ってきたイカボッド。
彼の新世紀の到来を待つ晴々とした台詞と共に、映画は幕を閉じます。
時代が前へと進むとき、悪しき遺物は取り残されていく運命にあります。しかし、過去の全てが消えゆくわけではありません。