イニスはもともと異性愛者であり、ジャックとの関係は例外的なものだったのでしょうか。
同性愛者の片鱗
父が暴行して死に至らしめた同性愛者の遺体を幼い日に見たイニスは、それがトラウマになってしまいました。
差別が日常化していたからといって、息子に遺体を見せるのは余りにもひどい行為です。
教育的にも良くないですし、人格の形成段階である子供ならなおさら影響を受けることくらい分かりそうなものなのに、なぜ父はイニスに見せたのか。
その答えは、イニスに同性愛者の片鱗を見出したからだったのかもしれません。
そうならば「お前が男を好きになったら、こんな目にあうぞ」という脅しの意味があったと推測できます。
大人になっても、父からの忠告がイニスを縛りつけていたのでしょう。
父へのアピール
ジャックもイニスも女性と結婚し、家庭を持ちました。特にイニスは離婚後も女性と付き合うなど、同性愛とは無関係に見えます。
子供もいるのですから、ジャックと一緒にならないまでも、彼女を作らなくてもいいのでは?と疑問が浮かぶところです。
これは他者から見た自分を意識した結果なのではないでしょうか。とりわけ昔自分に疑いの眼差しを向けた父へのアピールともみなすことができます。
これらの事を総合的に判断すると、イニスがゲイであったことはほぼ間違いなさそうです。
イニスが号泣した理由
ブロークバック・マウンテンでの期間限定の仕事が終わり、ジャックと別れたイニスは物陰で嗚咽しながら号泣しました。
この号泣の意味は何だったのでしょうか。ジャックとの別れがそれほど悲しかったと捉えるのも間違いではないでしょう。
ですがそれだけではない感情が湧き上がっていたように見えます。きっとイニスは自分がゲイだと自覚してしまったのかもしれません。
そしてその自覚は、「恋愛対象は女性だけ」と自分に言い聞かせてきた今までの人生を全否定するレベルのショックだったはずです。
認めたくないのに認めざるを得ない現実に、イニスの心は追いつけなかったのでしょう。
コントロールを失った感情は、嗚咽を伴った号泣という形で表面化されたのだと思われます。
2枚のシャツに隠された真相
2枚のシャツはブロークバック・マウンテンでの想い出が詰まっているとともに、互いへの愛の深さを表す役割も果たしているようです。
重なり合ったシャツが意味するものとは何だったのでしょうか。
変わらぬ愛
ブロークバック・マウンテンに忘れたはずのイニスのシャツはジャックのシャツに重ねられていました。
それはまるでイニスを包み込むジャックの姿に見え、死ぬまでイニスを愛していたことが分かります。
ジャックが浮気をしてイニスを激怒させたこともありましたが、このシャツを見てイニスは気づいたはずです。
初めて出会った時から少しも変わらない愛を注いでいたことを。
イニスの心の変化
ジャックのシャツを持ち帰ったイニスは、同じ様にお互いのシャツを重ねます。