この2人には、障害にぶつかって別れることになっても、まためぐり合える運命的な絆があるように思われます。
記憶と運命
人間は忘れる動物です。
エビングハウスの忘却曲線では、何もしなければたった1日で記憶の7割以上が消えてしまうといわれています。
ただし、何度も繰り返して振り返り思い出していれば、時間がたっても忘れられない記憶になるそうです。
別れの衝撃的な記憶が楽しい思い出を忘却のかなたに追いやった
過去の忘れたい経験ほどよく覚えているもの。
きっと、何度も後悔したり原因を追究したりするために、思い出しているからなのでしょう。
自分のひと言で別れを経験したジョエルは、何度も後悔してネガティブな別れの記憶を焼き付けてしまいました。
記憶除去手術の怖さは、覚えている記憶も忘れてしまった記憶も同じように消えていくことです。
別れの衝撃的な記憶があまりに鮮烈で、ジョエル自身が楽しい記憶を遠くへ追いやってしまったのではないでしょうか。
ジョエルとクレメンタインの運命
ジョエルとクレメンタインの運命の絆は、神によって与えられた奇跡のようでした。
人間が生きていく過程には、生まれる前から与えられた運命と試練があるとよく聞きます。
ジョエルが記憶除去手術を受け始めた時、なぜかクレメンタインがパニックになります。自分が消えてしまいそうだと。
ジョエルから自分の記憶がなくなってしまうことが、概念としてテレパシーのように伝わったのでしょうか。
2人が再会したのは、思い出の海岸でした。ジョエルが気まぐれに会社を休まなければ会えていません。
偶然の出会いは2人の運命的なつながりをあらわしています。
別れても再会してまた恋におちるジェルとクレメンタイン。
運命の輪は、2人に出会いと別れの試練を与えているように見えます。
試練を乗り越えてこそ真の幸せが待っている。神がやさしく2人を見守っているようです。
記憶除去手術に逃げてしまいたい人々
記憶除去手術を専門とするラクーナ医院のドクターであるハワード博士は、受付嬢のメアリーと不倫関係でした。
彼らは妻ホリーとの関係に悩みます。
ジョエルとクレメンタインも一夜の出来事で、ジョエルの発したひと言がひきがねになって別れてしまいます。
つらい今の気持ちから逃げてしまいたい
記憶を除去したいと考える瞬間とは、悲しみや苦しみなど一時のつらさから逃げてしまいたいと思った時ではないでしょうか。
不倫をやめられずに悩んでいたハワードとメアリーや、嫉妬からクレメンタインに思わぬひと言を発して後悔するジョエル。
耐えられない心の痛みから逃避したいと考えた人間の弱さが、記憶除去という手段に走らせるのだと考えられます。
ジョエルはクレメンタインが自分の記憶を除去したことに傷ついていました。
自分に原因があるだけにやりきれない思いが強かったでしょう。
ハワードはメアリーを愛していました。
直接本人から自分のことを忘れたいと相談されたハワードには愛するがゆえの葛藤があったにちがいありません。
ハワード本人も記憶除去手術を受けたかったのかもしれません。
記憶除去を本人に伝えたハワードの苦しみとメアリーの結論
ハワードは、最終的にメアリーに対して記憶除去手術をしたことを伝えてしまいます。
本来、記憶除去手術では、手術に踏み切った理由も消されてしまうので、誰も記憶除去のいきさつを知ることはできません。
自分が望んで愛する相手の記憶を除去したことを知ったメアリーは、自己嫌悪に苛まれたことでしょう。