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【散り椿(ネタバレ)】篠の最期の願いを二人の男はどう受け止めたのか徹底解説!散りゆく椿に込められた深い意味も考える

出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B07HGK8HZ4/cinema-notes-22

撮影助手として黒澤組を支え、その後数々の名作のキャメラを担当してきた木村大作が3作目の監督作品して初めて時代劇に挑戦した「散り椿」

原作は「蜩の記」の 葉室麟。脚本にはその「蜩の記」を監督した黒澤組の同志・小泉堯史を迎え、黒澤明に鍛えられた「こだわり」で、自身が目指した「美しい時代劇」を作り上げました。

主演・岡田准一自ら演出に協力した華麗な殺陣も見どころです。

ここでは、「初の時代劇にして、初のラブストーリー」という木村大作監督の作劇へのこだわりと愛の表現に付いて紐解いていきます。

木村大作流「ラブ・ストーリー」

すべては妻・篠の「最後の願い」から始まった

【映画パンフレット】散り椿 監督 木村大作 キャスト 岡田准一、西島秀俊、黒木華、池松壮亮、麻生久美子、緒形直人、新井浩文、柳楽優弥、芳根京子、駿河太郎、渡辺大、石橋蓮司、富司純子、奥田瑛二

京都に妻・篠と暮らしていた新兵衛が、再び扇野藩に戻る決意をしたのは、病を得た妻の「采女様をお助けしてください」、「もういちど私の代わりに故郷の”散り椿”を見てきてください」という遺言にも似た最後の言葉でした。

篠と采女は夫婦になる寸前だったところ、采女の母の強い反対に合い、今は新兵衛の妻となり彼にまつわる苦労を受け入れていました。

その篠から、かつての恋仲であった采女を助けて、と言われた新兵衛は篠の本当の気持ちを汲んで藩に戻ったわけではなかったのです。

采女は今でも独り身を貫いています。そこには篠への恋路への忠義らしさも感じさせます。

一方で同時に友人新兵衛への嫉妬にも似た心情を抑えかねるという武士らしい古風な愛の表現すら感じさせています。

しかし、彼もまた篠の本当の心の中を知ることになるのです。

さらに篠の実家には篠の妹・里美がいて、新兵衛に密かに心を寄せています。ここに本作の「木村流ラブ・ストーリー」の骨格が完成します。

“木村監督は原作に書かれた「大切に思えるものに出会えれば、それだけで幸せだと思っております」という言葉に惹かれたというが、各々の愛が叶うか叶わないかというよりも、自分が愛を傾ける人と出会えたことの幸せを、監督は映画の中に描きこもうとした。”

引用:映画「散り椿」公式ホームページ(東宝)

木村監督は、篠と新兵衛と采女、新兵衛と里美という男女の組み合わせの中で、それぞれ愛し合い、知り合った男女の武家時代の古風ながらも純粋な愛のあり方を表現したのです。

それは監督にしてみれば、今まさに失われつつある日本の美しい風景とシンクロして表現したかった日本人の美しい「愛」の形ではなかっったでしょうか。

ラブ・ストーリーを盛り上げる美しい映像

オールロケーションのこだわり

1000ピース ジグソーパズル 相倉合掌集落(富山) (50x75cm) 毛塚合紙所

木村監督が脚本担当・小泉堯史と作り上げようとした「美しい時代劇の中の愛の世界」を表現するため、木村監督は時代劇では珍しいオールロケーションを敢行しました。

この物語は冬に始まり春、夏、秋、と季節が移ろっていきます。

ロケ地遠景(主に富山県)や木々や花々といったの四季の変化は、監督自身がクランクイン前に事前に取り溜めて置いたといいます。

因みに“散り椿”とは「五色八重椿」といい、一木に五色の椿が咲きます

そして武士が「首が落ちるようだ」と嫌う普通の椿のようにボトリとは落ちず、桜のようにハラハラと散っていく椿のことです。

春に咲く花なので、ある意味主役とも言えるこの椿の四季折々も監督はストックしておきます。

日本には同じ夏でも、初夏、盛夏、晩夏など微妙に景色が変わる美しさがあります。

キャメラマン出身監督のこだわりは、こうした四季の移ろいをしっかりと映像に表現し、それを登場人物の微妙に動く心象に投影させることに使っている点に強く出ています。

これは前出のように監督が(風景も人間の心も)「美しい時代劇を作りたい」と語ったことの実践です。

特に印象的なのは、新兵衛と采女が剣を交える“散り椿”のシーンでしょう。

この木自体は本物ですが、ある家の裏庭から表に移し替え、花が咲く時期の撮影で無かったため、前出のように、撮り溜めしてあった本物を合成し、一部は造花を手でひとつひとつ付けていったといいます。

こうした努力が人物のバックグラウンドとなり、映画にチカラと満足感を与えていったのです。

師匠・黒澤明が「本物を作ってしまった」のなら、自分は「本当の場所へ行き、そこでしか感じられない自然と向き合って撮影する。」

というキャメラマンらしいこだわりが、登場人物の心象を浮き彫りにする役目を鮮やかに果たしていました。

本物の現場を大切にするためなら、アングルも犠牲にしたといいます。

因みに監督は

「椿の花を上に向けて付けてくれとお願いした。太陽に向かって咲く花を表現したかったんだ。」

引用:映画「散り椿」公式ホームページ

と語っていますが、この”散り椿”の花が太陽に向かって咲く、という事がラストでの重要な伏線になっています。

キャメラマンも兼ねた映像へのこだわり

この映画の最大の映像的みどころ

キャメラマン魂―日本映画を築いた撮影監督たち 単行本 – 1996/9/1 石渡 均 (編集)

黒澤組で撮影助手として鍛えられ、キャメラマンとして独立してからは数々の邦画の名作の撮影を担当してきた木村大作。

彼ならではの映像へのこだわりが本作には満ち溢れています。

まるでワンシーン・ワンシーンが一幅の画のような美しさです。

特に殺陣のシーンでは“多重カメラシステム”という、一度に3~5台のカメラを同時に回し、役者の演技を一切カットせず、一発で撮ってしまう手法が取られています。

当然カメラの1つは木村自身が回すこともあります。

これは役者に非常な(良い意味での)緊張感を与える一方、流れるような一連の殺陣の中に、顔の表情や手元、剣のアップ、背景込みのロングなどを一気に撮りあげることが可能で、リアルな瞬間を嘘偽りなく撮影出来るメリットがあります。

恋愛映画だけど時代劇だからチャンバラもちゃんと撮影したい、という黒澤組育ちならではの監督の、本物志向、リアル志向が伝わってきます。

木村流ラブ・ストーリー/演出編

演技は役者まかせ

B2映画ポスター散り椿 岡田准一、西島秀俊、黒木華、池松壮亮、麻生久美子 2018年

現場に台本を持っていかないことで知られる木村監督。

また現場では役者に演技を付けることは殆どないそうで、キャスティングの段階で現場での自分流を理解し、消化してくれる役者を選び、後は任せるのだそうです。

あとはなるべく役者たちと夕飯を一緒に食べること。

例えば、映画冒頭で新兵衛が篠にもたれ掛かるようにして会話をするシーンでは、武士の家ではありえないことなのですが、役者同志で決めたことを木村監督がOKしたのだそうです。

セリフも言いにくかったら変えていい、とまで言っていたといいます。

所作も大事だけれど、自分の家で、一人だったり夫婦だけだったりすれば、今の私たちがするような格好だってしただろう、人間らしい自然な振る舞いでいいのだ、という監督の主義なのです。

岡田准一の殺陣

殺陣師としてクレジットされた岡田准一

美術刀剣-模造刀 黒呂鞘(大刀) しのびや.com

木村監督の目から見て、現在殺陣が一番美しい俳優は岡田准一だそうです。

彼は3種類の格闘技の免許を持ち、かつストイックに自分を鍛え上げるので知られています。

木村監督は岡田准一で本作を撮ろうと決めたものの、スケジュールが合わず岡田の空きを待ったといいます。

木村監督が本作の殺陣師、久世浩に伝えたのは「今までに見たこともないような殺陣」

岡田は指示された殺陣を家に持って帰り、練習しながら自分流にアレンジしていきました。

そのハイライトが采女役の西島秀俊との“散り椿”を前にしての決闘シーンと、終盤の石田玄蕃一味との対決での4人斬りでしょう。

采女との対決は、妻との因縁を抱え、養父殺しの疑いも晴れていない新兵衛と、まさに映画のタグラインの如く『ただ愛のため、男は哀しき剣を振るう』二人の心象を交えた殺陣が見事にワンカットで撮影されました。

岡田は現場入りしてから自分が考えてきた殺陣を木村監督に披露、事前に知らなかった西島も岡田の説明を聞き納得し、その場で30分も稽古を繰り返し、7分ほどの一気撮りに挑みました。

まさに「裂帛」の気合が入った見事な殺陣が完成したのです。

黒澤組他でさんざん殺陣を見てきた木村監督と、本作の殺陣に一方ならぬ思い入れを抱いた岡田准一、それに応えた西島秀俊の呼吸がピッタリ合った瞬間でした。

木村監督は

「通常の殺陣師は、形で立ち回りを作ろうとする。でも岡田君は俳優だから、精神で殺陣を考えている。そこが違うんだ」と、岡田の独創性を絶賛していた。

                                    引用:映画「散り椿」公式ホームページ

といいます。

篠の最後の言葉の秘密とは

篠の思いは新兵衛に届くのか

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新兵衛は妻・篠の心にまだ采女がいる、と思い込んでいました。

片や采女も、自分の思いは篠にあり、篠も実は自分を今でも想い続けていてくれる、と信じて生きてきました。

しかし、決闘で斬り結ぶさなか、采女の言葉に新兵衛の疑念は晴れ、彼は刀を収めます。二人の確執が解けた瞬間でした。

篠は心から新兵衛を愛していたのです。

そして自分が死ぬことで、この人は私を追って死ぬのではないか、そう恐れた篠は、敢えて過去の采女への想いを告白し、彼を助けてやってほしいと頼んだのです。

二人の男が理解した篠のまごころ

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決闘を初めた時は、自分は(采女に斬られるか自刃するか)恋敵を殺し自分も篠の後を追う決意だった新兵衛ですが、篠の、新兵衛には「生きて、生きて、生きて欲しい」との切なる願いを采女の言葉から知るに及び、刀を収めたのです。

もちろん采女も篠の本心をしっかりと受け止めたのでした。

この決闘から二人の間の篠を巡る確執が解けるシーンでは、重要な心象カットにバックの”散り椿”が意味を持って写り込んで来ます

それは篠とであったり、采女とであったり、新兵衛自身とであったり。

先程も書いたように、木村監督が「花は上向きに」といったのは、まさに篠の真心と、新兵衛と采女の確執の解消という大きな明るい方向へのアイコンの役割を担わせたと理解できます。

このシーンは本作の中で剣戟・殺陣と物語の両面から、最重要なところ。

篠の言葉の裏にあるものと二人の男の心中がなかなか読み取りづらいので苦労するところでもあります。

采女が最後に新兵衛に語りかける言葉、

「散る椿は残る椿があると思えばこそ、見事に散っていけるのだ」

引用:映画「散り椿」/配給:東宝

この言葉は映画全体を象徴する一方、新兵衛と篠、その後の新兵衛と采女、殿様を守って撃たれた篠原三右衛門や非業の死を遂げた坂下源之進などにも係る重要な言葉です。

ラブ・ストーリー的にいえば、采女の篠への想いは続いていると見るのが正解でしょう。

そして”散り椿”

里美の恋心と別れ

映画チラシ 散り椿 岡田准一 2018「散り椿」製作委員会

お家騒動も一件落着し、それぞれに新しい暮らしがやってくることになりました。ここで映画はさらなる悲恋を追加します。

篠の妹、里美は、密かに新兵衛に想いを寄せていましたが、新兵衛は、里美の切ないまでの引き止めを振り切りまた流浪の旅に出ていってしまうのです。

自分は篠に殉じて散った椿。今は自分に添うたばかりに苦労の中あたら若い命を落とした篠もまた”散り椿”。

新兵衛の心の中にはその地に落ちた花弁を見つめる旅の中にしか篠に言われた「生きて」という言葉を実現出来る手段は無かったのです。

それが不器用な新兵衛なりの篠への愛情の示し方でした。

文庫本で400ページになる原作を小泉堯史はよく纏めましたが、采女の割とあっけない死とか、短くしたことで「物語の綾」が薄くなり、物語が平板に抑えすぎになっている。

またエンドロールの自筆の名前はいかがなものか、という難点を指摘する声もあります。

しかし「日本の美しい風景」と「昔の日本人の美しい心」が共振する一級の「美しい時代劇」であることは確かでしょう。