そこまで行くと彼女はもはや「愛」や「束縛」すら超えた「執着」そのもののメタファーといえるでしょう。
オズの魔法使い
このように一癖も二癖も強い「ワイルド・アット・ハート」ですが、実はもう一つモチーフがあります。
それこそがかの有名な「オズの魔法使い」です。本作ではどのように用いられたのでしょうか?
自分を知ること
「オズの魔法使い」をここで軽く言及するなら、その真のテーマは恐らく“自分を知ること”でしょう。
原作ではドロシーが様々な困難を乗り越えていく過程で本当に必要なものが「心」にあると気付くのです。
これが本作ではセイラーとルーラが逃避行を行う内に己の「心」と向き合うことに繋がります。
二人は何度も現実の過酷な試練に打ちのめされ、そのたびに奥底から望むものは何か?と向き合うのです。
そこで初めて「自分を知る」ことが最も難しく、しかし同時に最も大切であることに気付くのです。
マリエッタは西の悪い魔女か?
こうして見ていくと、マリエッタの執着は西の悪い魔女のパロディともいえるでしょう。
しかし、西の悪い魔女とマリエッタでは似て非なる部分部分もまたあります。
西の悪い魔女はドロシーが姉を殺したという誤解をずっと引きずって彼女を追い回すのです。
一方のマリエッタは自殺に見せかけて父を殺した真相を隠蔽するために事実を知るセイラー抹殺を目論むのです。
つまりマリエッタは西の悪い魔女とは逆で自身が犯した罪の隠蔽工作で一連の悪事を画策したことになります。
その意味でマリエッタは西の悪い魔女と執念深さでは共通しつつも行動原理は正反対だったのではないでしょうか。
ルーラが飲み物を写真にかけた意味
さて、ここまで見ていくと、ルーラが飲み物を写真にかけた意味も自ずと分かります。
果たして彼女は何故このようなことをしたのでしょうか?
魔女退治
「オズの魔法使い」をベースとするなら端的にいって魔女退治のメタファーでしょう。
ドロシーが西の悪い魔女の弱点を水と知らないまま水をかけたら退治出来たのと同じ理屈です。
しかし、それだけなら直接マリエッタ本人に飲み物をかければいいのですから、魔女退治とは少し違います。
果たして何故写真に飲み物をかけたのでしょうか?
過去との決別
ルーラがマリエッタの写真に飲み物をかけた意味、それは何よりも「過去との決別」ではないでしょうか。
ルーラが奥底で望んでいたものはセイラーの愛であり、その為には母との過去を捨て去らなければなりません。
しかも「ワイルド・アット・ハート」の場合そうしなければ大切なセイラーを守ることが出来なかったのです。
その証拠にルーラはこう掃き捨てています。
もし私とセイラーの幸せを邪魔したら、根元からママの腕を引っこ抜いてやるからね!
引用:ワイルド・アット・ハート/配給:日本衛星放送
ルーラが真に怒ったのは母の束縛よりは寧ろその結果セイラーが傷つき、奪われることだったのでしょう。
希望と絶望
こうしてみると、ルーラとマリエッタの生き様は見事なまでに正反対でした。
ルーラはどんな現実の艱難辛苦に打ちのめされても、最後までセイラーへの愛は一途に貫き通しました。