華々しい成功を収めた巨船が新しく小さな船に引かれていく姿はいつの時代にもあてはまる“世代交代”をイメージさせます。
これはまさにジェームズ・ボンドの劇中での「今」を印象付けるものだったのです。
新生Q
そしてこのボンドと『戦艦テメレール号』との対面を横で見ている若者こそ兵器開発係のQです。
これまでデスモンド・リュウェリンが演じてきた名物おじいさんに扮するのはベン・ウィショーで、当時32歳と大きく若返りました。
彼はからかいます。
「諜報部員なんてパジャマ姿でお茶を飲みながらパソコン1つで倒せる」
引用元:007スカイフォール/配給会社:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント
イギリスの国民的画家ターナーの作品を通じて、若者と年長者が対比されるこの場面はユーモラスで印象的な場面となっています。
この印象派ターナーのタッチは映画の後半、光と闇、炎と煙で演出されるロジャー・ディーキンスのカメラにも影響を与えているといえるでしょう。
宿敵シルヴァ
宿敵シルヴァは元同僚
オスカー俳優ハビエル・バルデムが怪演する悪役シルヴァはジェームズ・ボンドと同じくかつてMI-6で活躍したスパイであり、Mの部下という役どころ。
彼は政治的思惑からMに見放され服毒自殺を図るのですが、その後Mを「ママ」と呼び復讐を目論むことから、激しい拷問で凶器に狂った様がうかがえます。
ジェームズ・ボンドの“影”
これまでシリーズには『007 ゴールデンアイ』のショーン・ビーンなど度々、ジェームズ・ボンドの同僚である元スパイが悪役として登場してきました。
それは時代に翻弄され、スパイの世界の非情によって生み出されたもう1つのジェームズ・ボンドの姿でもあります。
エージェントの生命よりもミッションを優先したMの命令によってボンドは傷を負い消息不明となっても、彼が悪に染まらなかったのはなぜでしょう。
Mが「不屈の英国人」と評するように、その後ボンドはシルヴァの脅威に立ち向かいます。
しかしこれはボンドが不屈の精神を持っていたからといえます。
また、Mを女性への敬称「Ma’am」(マム)で呼び続けるボンドと、「ママ」と呼ぶシルヴァの戦いはまるで母親を巡る兄弟の近親憎悪です。
シルヴァはボンドのダークサイドであり、そしてボンドの不屈の英国人魂こそ映画のメインテーマとなっていきます。
「スカイフォール」の真の意味とは
タイトルへの伏線
映画の中盤、囚われたボンドとシルヴァのこの会話に注目です。
シルヴァ:「趣味はなんだ?」
ボンド:「復活だ」
引用元:007スカイフォール/配給会社:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント
『007 スカイフォール』は傷を負い、疲れた果てたボンドの再起を謳う言葉が形を変えて何度も登場します。
まさにこの会話でボンドが言う「復活」も彼の再起を知らしめる伏線といえるのではないでしょうか。
007の主題歌は当時の人気歌手が直接的にテーマを歌うのが定番です。
今回はグラミー賞受賞アーティストのアデルが担当し、主題歌『Skyfall』はアカデミー賞で主題歌賞に輝きました。
正義を成せ
“スカイフォール”とは劇中、ジェームズ・ボンドが幼少期を過ごした邸宅の名前として出てきます。
その言葉のルーツは古代ローマの格言『天墜つるとも、正義を成就せしめよ』です。