最初のうちはゴルフ場に勤めていたので、安定した収入はあったでしょう。
しかし途端に山火事の仕事という、低賃金で危険をともなう現場に行こうと決めてしまいました。
つまり家族を養うことを放棄したと考えられます。
ジェリーは無意識に「夫としての役割」に抵抗していたのかもしれません。
妻の役割を放棄したジャネット
ジェリー同様、ジャネットも山火事の件以前は妻として家庭を守る役割を果たしていました。
ですがジェリーが夫の役割を果たさなくなった瞬間、彼女も妻としての役割を放棄したようです。
彼女が役割を放棄した原因は夫だけでなく、「妻は夫を支え、家庭に収まっているものだ」という前時代的な考えにもあったのではないでしょうか。
以前のジャネットは家庭に縛りつけられていたように見えます。それが夫不在をきっかけに解放されたのかもしれません。
とにかく、2人が夫婦の役割を放棄したことで夫が夫ではなくなり、妻も妻ではなくなったのでしょう。
ジョーだけが家族を続けていた
ジェリーとジャネットが夫婦の役割を放棄したことで、家族の形が無残にも崩れてしまいました。
ですがブリンソン家はまだ完璧に家族の機能を失っていたわけではないようです。
その理由は唯一残ったジョーだけが息子としての役割を続けていたから。
ジョーだけが両親を見捨てず、これまでと変わらずに学業とバイトに励んでいました。
なぜ彼は父と母を責めず、許していたのでしょうか。
それはきっと自分だけはこの家族を信じてあげなくてはいけないと感じていたのだと思われます。
もしジョーまで家族を否定したら、彼らが家族だった事実すら否定されてしまうと考えたのでしょう。
誰か1人でも家族の存在を肯定すれば、家族は消えずに済む。
そんな健気なジョーの想いがあったからこそラストで3人は集まり、ジョーの希望通り家族写真を撮ることができたと考えられます。
まとめ
ジェリーの転職とジャネットの浮気。その裏には夫と妻に対する固定概念が影響していると考えられます。
現代でこそジェンダーフリーが叫ばれ、男女の社会的役割分担に異論を唱える人々が増えてきました。
その過程にはきっとジェリーやジャネットのように、本人たちも気づかぬうちに夫婦の役割に潰されていった大勢の犠牲者がいたはずです。
「ワイルドライフ」という映画は家族のあり方を通して、男女のあるべき姿を見直そうというメッセージが込められていたのかもしれません。