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「冷たい熱帯魚」の監督を務めた園子温が2019年に映画「愛なき森で叫べ」を制作し、話題になりました。
映画撮影のグループに声をかけられた上京したてのシンは、自主映画に参加することに。
その一方、椎名桔平演じる詐欺師の村田が、鎌滝えり演じる美津子や妙子たちを洗脳し、大量殺人を引き起こします。
ロミオとジュリエットを背景にして繰り広げられる人間模様と映画を観終わってもなお続く謎。
今回はそんな深みのあるこの作品の、ラストに現れたロミオの意味・村田が簡単に洗脳できた理由・美津子の告白の真意を考察します。
ロミオとジュリエット
演劇部の舞台でロミオとジュリエットを演じることになったエイコと美津子。
現実ではエイコと妙子ができていたため、美津子は妙子への嫉妬心に駆られます。
この三角関係が後の事件に大きな影響を及ぼすなんて、誰も予想していなかったでしょう。
一族を背負わされる運命
死をもって一族の呪縛から解放されたことでロミオとジュリエットは愛を貫きました。それになぞらえて演劇部のメンバーは集団自殺を謀ります。
全員で飛び降りる予定が、美津子だけ免れた意味は大きいのです。
なぜなら彼女だけ「死」からもたらされる「呪縛からの解放」がなされなかったのですから。
これが原因で大人になっても美津子はロミオ(エイコ)を過去の思い出にすることができなかったと考えられます。
傍観者
役の上ではエイコと美津子はカップルでしたが、現実ではエイコの相手は妙子。
美津子は役の中でも現実でもエイコの愛は自分に向けられるはずだと考えていたようです。
しかし実際は、エイコと愛し合っていたのは妙子ですから、美津子は部外者同然と考えられます。
いわば美津子はロミオの追っかけをしているファンの立場にいただけで、映画という作り物を観ている私たちとなんら変わりがないでしょう。
美津子の告白の真意
なぜ死の直前に、美津子は全てを告白しようと思ったのでしょうか。彼女の告白の持つ意味を考察していきます。
ジュリエットになりきれなかった
ジュリエットはロミオへの愛のために死にました。
ですが観ている側からは「その死は一族からの脱却を表している」「死によって自由を得た」という解釈をされています。
それを踏まえて美津子の行動を見てみると、彼女がジュリエットになりきれなかった理由が分かるのではないでしょうか。
美津子は両親・妹に不満を持ち、殺したいと思っていたようです。
そしてその意を表に出さず、村田に利用されていたから家族を死に追いやったと見せかけていました。
つまり彼女は家というしがらみを取り払って自由になりたかったのだと思います。まるでジュリエットのように。