そうして俗世から切り離され人間性まで喪失していく内に人形化していくのです

着せ替えによる表情の変化

大人の着せ替え布人形: 小さくても仕立ては本格的

人形化していく過程で一番の変化は着せ替えによって全然違う色に見えることです。

特に山本耀司氏が手がけた紅葉と一体化する佐和子の赤の衣装は純真無垢な印象を強く与えます。

これもまた人形化の面白い所で、着せ替えによって幾通りもの表現が出来てしまうのです。

その極致が終盤に至る松本と佐和子の人形達から贈られた着物で雪山を歩くシーンに見えます。

そうやって丁寧に段階を踏んで人形としての色気を醸し出していく過程が何よりの醍醐味です。

死が訪れる理由

Newton別冊『死とは何か』 (ニュートン別冊)

浄瑠璃に倣って人形化していく男女には死が訪れ、愛を成就させるには至りませんでした。

ここではその理由について考察していきましょう。

狂気と一体化した愛

狂気の愛 (アリス文庫)

まず人形化した三組の恋人達はいずれも社会的地位を失うほど愛に生きる狂気を宿しています。

特に追っかけのアイドルファンはアイドルの為に両方とも失明、文字通りの「盲目」となりました。

他人の命の為にここまで擲つなど常軌を逸した行為であり、普通ならばとても出来ません。

いや、普通ではない狂気を伴った存在だったからこそそういうことが可能となったのです。

本作における男女の愛は静かながらその行動自体とても狂気に満ちているのです。

限界効用逓減の法則

そんな三組の恋人達には一瞬だけ心を通わせる瞬間が存在します。

しかし、いずれもがそのつかの間の幸せを味わった後落ちるのみとなります。

ここに描かれているのは限界効用逓減の法則ではないでしょうか。

どんな商品や作品にも最初見たときの感動や興奮が全てで二度目以降はその価値が下がっていきます。

男女の愛もこれと同じである時点で最高潮に達した後は基本下がっていくのみで興奮はしません。

それを言葉ではなく一瞬の画で表現してしまうところに北野監督独特の美学を感じるのです。

最大の暴力=突然死

日本の突然の死―亡国 (上) (角川文庫 (5822))

北野監督は「Dolls」を「最も暴力的な映画」だと評しました。何故でしょうか?

それは不意に訪れる突然の死ほど人間にとって最も怖く最も残酷なものはないからです。

特に松本と佐和子が崖の木枝に吊るされ死亡するラストはそれをよく表現しています。

しかもその三組とも話の流れとは全く関係ない形で理由もなく死んでしまっているのです。

そこには切なさも悲しさも、そして儚さも全てが無に帰する形となって何も残りません。

死はただの死、それ以外の何もそこにはないのです。

ペンダントの回想シーン

さて、本作の謎といえばもう一つ、ペンダントの回想シーンがありました。

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