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撮影助手として黒澤組を支え、その後数々の名作のキャメラを担当してきた木村大作。
彼が3作目の監督作品にして初めて時代劇に挑戦したのが「散り椿」です。
原作は「蜩の記」の 葉室麟。脚本にはその「蜩の記」を監督した黒澤組の同志・小泉堯史を迎えています。
黒澤明に鍛えられた「こだわり」で、自身が目指した「美しい時代劇」を作り上げました。
主演・岡田准一自ら演出に協力した華麗な殺陣も見どころです。
今回は「初の時代劇にして、初のラブストーリー」という木村大作監督の作劇へのこだわりと愛の表現に付いて紐解きます。
「采女様をお助けしてください」の真意
「采女様を助けて」という願いは新兵衛が後追い自殺するのを防ぐ役割をしていました。
何か生きる目的ができればという切なる思いが感動を誘います。
しかしそれだけのためにこの願いを伝えたのでしょうか。そこには「良い意味で計算高い」篠の策略があったように見えます。
先を読む力
真意をストレートに伝えても新兵衛が後追い自殺することを予想する力を持つ篠。
「采女様を助けて」という願いに対して新兵衛がどんな行動をとるか分かっていたはずです。
そして新兵衛と再会した采女がどう感じ、どう行動するかも見越していたのではないでしょうか
采女への信頼
采女はかつて愛した男なのだから信頼のおける人物だと篠は確信していたと考えられます。
誤解をしている新兵衛を諭して、本当の篠の想いを伝えてくれることも予想していたはずです。
それに自分の愛に疑いを持たせるという心が切り裂かれるような嘘をついてまで新兵衛を生かしたいという願い。
そんな究極とも思える愛を見せつけられた采女は、篠への愛を諦めるしかないはず。
いやむしろ篠の「新兵衛に生きてほしい」という願いを、命をかけて守るだろうと考えていたかもしれません。
「故郷の散り椿を見てきてください」の真意
「故郷の散り椿」には2つのポイントがあると考えられます。1つめは散り椿を見て、篠の本心を知ることです。
そして2つ目は故郷に帰ること。順番に説明していきます。
篠の本心を表す散り椿
散り椿”とは「五色八重椿」といい、一木に五色の椿が咲きます。
そして武士が「首が落ちるようだ」と嫌う普通の椿のようにボトリとは落ちず、桜のようにハラハラと散っていく椿のことです。
采女が最後に新兵衛に語りかける言葉、
「散る椿は残る椿があると思えばこそ、見事に散っていけるのだ」
引用:映画「散り椿」/配給:東宝
この言葉が篠の本心であることはいうまでもありません。新兵衛が生きていてくれるから篠は安心して死ねるのです。
この真意にたどり着くのは新兵衛だけの力では無理だったでしょう。采女が解説してくれたから分かったことです。
ですから新兵衛と采女が再会し、和解することまで篠は見通していたといえます。
故郷にあるもう1つの恋心
散り椿は故郷にしかないわけではありません。ですからどうしても故郷に新兵衛を導きたいという狙いがあったことが分かります。
故郷と疎遠になっていたのをどうにかしたいという想いもあったでしょう。しかし命をかけた願い事にするには弱い根拠です。
ここで浮上するのが里美。篠は里美の恋心に気づいていたのではないでしょうか。
新兵衛が旅に出る場面では、里美が好意を隠しもせず引き止めていました。
彼女は自分の気持ちをひた隠しにするタイプではなさそうです。そうなると篠がそれに気づいていてもおかしくないはず。