歌い始めたのは”Come Rain Come Shine”でした。そして彼女は続いて「オーバー・ザ・レインボー」を歌い始めます。
もう、歌を歌える日が来ないかも知れない、ジュディにはそんな気持ちがあったのではないでしょうか。
そこで選んだのが「オーバー・ザ・レインボー」だったのです。彼女のアイコンとなっている曲です。
虹の彼方
どこか遠く
空がとても青くて
そこではどんなに大きな夢も
必ず叶うらしい
引用:ジュディ 虹の彼方に/配給会社:GAGA
初めて映画に出て歌ったこの歌のように、「虹の向こうの幸せな夢が叶う」ことはなかったジュディ。
その歌詞を思いながら歌えば、途中で感極まって歌えなくなってしまう心境は良く理解できます。
彼女にとって苦しい思い出ばかりのこの歌を最後に選んだのは、自分には苦しい歌でもみんなが歌える歌。最後のセリフにあるように
私を忘れないで
引用:ジュディ 虹の彼方に/配給会社:GAGA
様々な愛を失い続けた人生だったけど、この歌を口にする時には、みんなが愛してくれた私を思い出してね、という絶唱だったと思われます。
彼女の孤独な胸の内と思うと胸がつぶれる思いがします。しかし、共に聴衆が大合唱してくれた時、彼女の心はきっと救われたのでしょう。
レネー・ゼルウィガー
レネーの実人生が投影された演技
本作の主演女優、レネー・ゼルウィガーについて触れないわけにはいきません。
レネーは「ベティ・サイズモア」「ブリジット・ジョーンズの日記」「シカゴ」「コールド・マウンテン」などでキャリアを積んできたベテラン。
しかし、その後暫く映画の世界から遠のいていました。私生活でのゴタゴタもあったようです。
この映画を撮影した当時レネーは49歳。演じたジュディがロンドン公演を行ったのが46歳ですから、ほぼ同年齢。
レネーはジュディの歌唱法はもとより、背中が曲がった姿勢や、仕草、話し方などを1年間かけて徹底的に勉強したそうです。
その努力に加え、彼女自信が体験してきた人生経験が重なって演技に厚みが付いたと断言できるでしょう。
そうした心情も背景となった中で歌われれる全曲吹き替えなしのレネーの圧巻の歌声も魂が揺さぶられる見事なものです。
そっくりさんを演るだけではジュディに失礼
レネー演じる46歳のジュディはまるで60歳代のように老けて見えます。実際そのようだったようです。
薬や酒や煙草のやりすぎでは肌が若々しくあるわけがありません。このあたりのメイクは痛々しくも見事。
さらに、映画の中で歌われる歌は歌詞を見ると、当時のジュディの心情を語っているかのようなアテ具合でこちらも素晴らしい選曲です。
本作ではジュディの栄光部分を少しも美化すること無く、哀れな部分、私生活の負の部分のきちんと描きだしています。
こうしてジュデイの人生を描き切ったある意味残酷な演出もさすがに舞台監督経験の長いルパート・グールドらしい采配だったといえるでしょう。
これらを総合して、レネーはジュディの最後の1年間を見事に演じきったのでした。
彼女は今まさに油の乗り切った女優としての黄金期にいます。
極言を許していただければ、この映画はレネー・ゼルウィガーの演技を鑑賞する作品と言っても過言ではないでしょう。