実家で両親と人生について話しているとき、両親からこのような言葉が出てきました。
隆、人生なんて生きてさえいれば案外何とでもなる
引用:ちょっと今から仕事やめてくる/配給会社:東宝
両親が教えてくれたこの言葉はまさに、ヤマモトが教えてくれたことと同じなのです。
青山は、正社員で働くこと、辛いのが当たり前という世の中で生きています。
さらに仕事が決まらず苦しむ両親の姿を見てきました。これらの価値観が一気に壊れたのは、両親のこの言葉です。
そして両親やヤマモトの言葉を、ゆっくり理解していくシーンが次のシーンにあります。
縁側で一人酒
仕事のために終電で帰ることを言ったシーンから、ヤマモトにカフェで会う(会社を辞めることを話す)までには2カットしかありません。
それが「両親の話を聞くシーン」と「縁側で一人酒をするシーン」です。
つまりこの2カットの中で、青山は会社を辞める決断をしたと考えられます。
縁側で一人酒をする中で、青山はゆっくりした時間の流れを感じました。そうして少しずつヤマモトと両親の言葉を理解します。
こうして青山は会社を辞める決断に至ったのです。
作者の北川恵海の表現
青山に仕事を「辞めさせた」のは、作者の北川恵海の現代社会に対するメッセージとも考えられます。
- 日本国内自殺者数は毎年2万人近く
- 新卒3年以内の若者の高い離職率
これらの現実がはびこる日本の社会です。
その象徴とも言える会社で働く青山に、仕事を「辞めさせる」ことで、「会社を辞めても大丈夫」ということを観衆に伝えています。
青山が仕事を辞めるのには、作者と監督である成島出のメッセージが背景としてあったのです。
ヤマモトは笑顔の大切さを知る
両親の死から立ち直れないヤマモトは、兄の純が見せてくれたバヌアツの子どもの笑顔の写真で立ち直り、笑顔の大切さを学びます。
つまりヤマモトが青山に何度も接触してくるのは、ヤマモトを笑顔にするためなのです。
後述していますが、実はヤマモトも生きることに苦悩しており、笑顔でいることの大切さを忘れかけていました。
だからこそ、ヤマモトに笑顔になってもらうことで、自分が信じた生き方を確かめようとしていたのです。
兄の純と青山の共通点
ヤマモトは青山を助けもしていたし、助けられもしていました。それには、兄の純が関係しています。
その兄はバヌアツで医師になることを目指していましたが、ブラック企業に使われて自殺してしまいました。
目の前にいる青山の境遇はまさに、兄の純と重なります。
助けられなかった兄、助けられる青山
ヤマモトは兄の純を救うことができませんでした。そのため、兄の死はいつまでもヤマモトの心に暗い雲をかけ続けています。
その証拠にバスで純の墓参りに行くヤマモトは、非常に暗い顔をしていました。
つまりヤマモトは純の死を乗り越えらえていないのです。青山を助けるのは、ヤマモトからしてみれば罪滅ぼしのようなもの。
純と同じ結果にならないように、ヤマモトは青山に何度も接触しブラックな会社を辞めてもらおうとするのでした。
時折ストーカーのように、木の上から青山のアパートをのぞき込んだり、何度も電話を入れていたりするのも青山を助けるため。
少し異常とも思えるほど青山に近づく目的は、青山を助けるための情報収集と観察だったのです。
青山もヤマモトも次のステップへ
ヤマモトが何度も青山に接触し、自殺せず幸せな生き方を見つけることで、ヤマモト自身も救われます。