本編は最後に歩美の両親の死、そしてアイ子から受け継がれる鏡でツナグを継承します。
歩美はどんな想いをもって両親と祖母のこと、そしてツナグという宿命を受け止めたのでしょうか?
親の心子知らず、子の心親知らず
歩美の両親が謎の死を遂げた理由、その一つは親子間の気持ちのすれ違いではないでしょうか。
親の心子知らずとはいいますが、その逆に子の心親知らずという言葉もまたあります。
祖母アイ子は父・亮介にツナグと鏡のことは伝えましたが、その心までは判っていなかったようです。
何せ「何が起こったか分からない」と言っていますから、ちゃんと話をしなかったのでしょう。
特に昨今の親子関係ではありがちで、親と子供では血が繋がっていても基本生きる世界が違います。
アイ子は恐らく役目の継承だけを気にし、肝心要の亮介の心までは理解出来なかったのです。
歩美の両親の死、その一番の原因は祖母アイ子と息子亮介の気持ちの違いではないでしょうか。
鏡は死への誘い
ツナグの銅鏡はツナグも見た者も死ぬといわれますが、これは鏡自体が「死」の象徴だからです。
よく鏡に向かって「お前は誰だ」といい続けると自分が分からなくなり精神崩壊を起こすと聞きます。
ましてやツナグは死者と生者を会わせるのですから天国と地獄の境目へと行くことになるのです。
ツナグという宿命は鏡にある「死」という恐怖と向き合わないといけない関係にあります。
歩美の両親はそこを破ってでも会いたい祖父という人がいたことがそうさせたのでしょう。
歩美への継承
両親が死んだ事実を長らく罪と感じていたアイ子は歩美への継承で漸く罪の意識から解放されます。
歩美は両親の死と鏡を決して否定せず、優しく受け入れてツナグを前向きに変えました。
そしてそれは同時に歩美こそが真の「ツナグ」、即ち両親と祖母と祖父を繋ぐ人になった証でしょう。
この継承はただの儀式ではなく歩美が真の「ツナグ」になる瞬間でもあるのです。
そこに辿り着くまでを描いたのがこの映画の醍醐味であるといえます。
畠田と母ツルの関係
歩美とアイ子の関係のヒントになっているのが冒頭の畠田靖彦と母ツルの関係です。
畠田の場合は真実がばれることを恐れ、優しい嘘を相手についていました。
母ツルは癌という事実を隠していたのに、母はそれを優しさと肯定します。
ここで描かれたことが終盤で展開される歩美一家のツナグへの伏線となっているのです。
渋谷一家が円満な形でツナグを継承出来た最初の一歩と見て間違いないでしょう。
目の前に居なくても繋がれる
映画「ツナグ」は渋谷一家を通して様々な人の思いを繋ぐお話でした。
その中には良い関係もあれば悪い関係も数多くあり、様々な思いがあります。
しかし、言葉を交わさず目の前に居なくても人と人は思いさえあれば繋がるのです。
3.11で大きな打撃を受けた2012年の日本には大きなメッセージだったのではないでしょうか。
人と人との繋がりが特に叫ばれている今こそこの映画を改めて見てみましょう。
きっと、何か心の奥に引っかかるものを感じることが出来るはずです。