出典元: https://www.amazon.co.jp/dp/B086GF7HTP/?tag=cinema-notes-22
ルーカス・ドン監督が、ベルギー出身のトランス女性ダンサーに着想をえて制作した映画「Girl/ガール」が2019年に公開されました。
この映画は監督の初長編映画にも関わらず、カンヌでも賞をとっています。
カンヌ国際映画祭の新人監督賞にあたるカメラドールを受賞
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/Girl/ガール
難関バレエ学校に入学したトランスジェンダーのララを主人公にし、思春期真っ只中の葛藤を描いています。
プロのバレリーナを目指すララに襲いかかる身体の変化。性に翻弄され追い込まれたララの精神は壊れてしまったのでしょうか。
今回は、ララのその後・なぜバレリーナを目指すのか・追い詰められた原因と「大丈夫」と答える理由を考察します。
思春期としての苦しみ
ララにはトランスジェンダーの苦しみ以外にも「思春期としての苦しみ」があったように見えます。
性と思春期の関係は深く関連していますが、同一視するのは違うのかもしれません。
性を語る恥ずかしさ
この映画はララの15歳から16歳の多感な時期を切り取った作品です。
仮に彼女がトランスジェンダーでなくとも、性に関する話をオープンにするには抵抗があるはず。
ですが理解者であるはずの父や主治医でさえも、そんな彼女の心の内を理解できたでしょうか。
トランスジェンダーにばかり目を向け、ララ本人の人格を無視していた可能性は否定できません。
身体の成長
15、6歳の思春期には、彼らの人生において最も性別に変化が起こる時期です。
身体の成長に心が追いつけず、精神不安定になることはララに限ったことではないでしょう。
その不安定さの原因をトランスジェンダーだけに押し付けるのは少々強引かもしれません。
誰にでも思春期の弊害に苦しめられる危険はあります。悪い意味での特別感をララに感じさせない配慮も必要だったのでしょう。
身体と心の不一致に加え、思春期の悩みを抱えたララ。あえてバレリーナを目指した理由とは何だったのでしょうか。
なぜバレリーナを目指す?
「バレリーナのイメージは?」と聞かれたら、その優雅さと女性らしさを挙げる人は多いのではないでしょうか。
きっとララもそこにバレリーナの魅力を感じていたはずです。
ですが実際にバレリーナを目指すには、乗り越えなければならない障害があまりにも多過ぎます。
それでもララが目指した理由とは何だったのでしょうか。
優雅さは女性の象徴
身体の動きもしなやかなバレリーナはいつの時代も少女達の憧れの的。
ララは女性らしい女性を目指したかったようで、その代表がバレリーナだったのではないでしょうか。
もしバレリーナより女性らしさを感じる踊りや職業があったら、ララはそちらを目指していたかもしれません。
つまり彼女はバレリーナを通して女性らしさを獲得したかったという見方もできるのです。
性の中和
一口に女性といっても、か弱いタイプもいれば男性よりも逞しいタイプもいるのが現実です。
しかしララが男性性を払拭するためには、強力な女性性を得なければならないと感じていたのかもしれません。
それは例えるなら酸性とアルカリ性を混ぜて中性にするようなイメージに近いでしょう。
女性の中の女性であるバレリーナは、強力な女性性に値すると考え、バレリーナでしか自分は女性に近づけないと考えていたように見えます。
典型的な女性像
「女性というのは、こういうものだ」という固定概念がララの中にはあったように見えます。
「男とは」「女とは」というものの見方はもう古いと捉えられている現代。
ララにとってバレリーナは、そんな前時代的な女性像そのものだったのでしょう。
そう考えるとララを縛り付けているのは彼女自身の女性像だといえそうです。