ほとんどの観客も『ファビオ』って誰だ?と思ったのではないでしょうか。
この時のセリフは『見かけの話』ばかりしているスカウトたちに「ジーンズでも売りたいのか」と言ったあとに続きます。
つまり見かけだけの宣伝効果を狙っているならば探すべき人は『ファビオ』だと言っているのです。
これはロマン小説の表紙で有名なモデルで俳優の『ファビオ・ランツォーニ』のことでしょう。
ピーターという存在
ビリー・ビーンは実在の人物ですしピーターのモデルも実在します。
それは『ハーバード大学』卒のポール・デポデスタという人物です。
デポデスタ氏は2002年シーズンの『アスレチックスの奇跡』を生み出した後、2004年にドジャースのGMに就任しています。
経済学の効果
旧態依然とした野球界にビリーとピーターは『経済学的な一石』を投じました。
経済学における統計は理論を構築する上での礎となる数字です。
彼らの『セイバーメトリクス』を用いた統計学は近年の野球界に多大な影響を与えています。
『貧乏チーム』が『金持ちチーム』と同じ土俵で同じことをやっても勝ち目はないのが当然でしょう。
金で選手を買うのではなく勝利を買うという理論がセイバーメトリクスの全てです。
ビリーは高額選手が誇る『打率』や『打点』ではなく、『出塁率』に重点を置いたトレードで選手を獲得しチームを作り上げました。
活躍が目立たず年棒も低いが『出塁率』の良い選手を選ぶことを徹底するということが『経済学』に通じています。
売れれば儲けは大きいがたまにしか売れない商品より、儲けは少ないが年間通して安定的に売れる商品を複数仕入れるのです。
ビリーとピーターは高額選手一人の穴を年棒の低い数人の選手で埋めました。
統計学は結果論か
『統計学』は過去のデータをまとめたものであって、いわゆる『結果論』だともいわれます。
高い商品を不良在庫として抱えても、たまに1個売れれば良いというのが従来のメジャーリーグの考えでした。
ビリーとピーターは安い商品でも豊富な品揃えで勝負するという経済理論で勝負に出ます。
言い換えると弱小メーカーが薄利多売でオートクチュールの純利益に挑んだのです。
プレーオフに進出するには最低99勝が必要であり、そのためには814点を獲得すること。
そして失点は645点までに留めることを勝利の方程式としました。
その目標を達成するために必要なパーツとして2万人の選手を数値化し探し出していきます。
そこにヒューマニティは不要です。
必要なのは経済学のロジックだけでした。
従来の基準には外れていても、勝つために必要な部分があれば『買い』なのです。
当時のメジャーリーグでは237千ドルの価値しかない選手でも、その特性だけを使えば300万ドルの価値となります。
1勝あたり140万ドルを使うヤンキースと、同じ勝ち数を26万ドルで手に入れたビリーとピーターはまさに先駆者でした。
最初に成し遂げる者はとかく叩かれるという見本ですが、それを成し遂げられたのは紛れもなく野球への愛です。