そしてキルオは偽物として消されそうになったところを逃げ延びて顔を変えたとしたらどうでしょう。
キルオが犯した最初の殺人は通り魔に見せかけた計画的復讐殺人だったのかもしれません。
飄々と無感情に人を殺すキルオは狂っています。
食べたいから食べ、寝たいから寝るのと同じレベルで殺したいから殺しているキルオ。
キルオはダークサイドに堕ちた青柳の未来だったのかもしれません。
そうなると小鳩沢は佐々木の未来ということになります。
いずれにしてもコレだけの深読みをさせる濱田岳の怪演ぶりには絶賛しかありません。
テーマは信頼
森田森吾が車の中で人間の最後の武器は『習慣と信頼』だと言います。
それは今後の青柳の運命を決める重要なキーワードとなりました。
物語の中には青柳を助ける人たちにとっての『信頼』と青柳自身の『習慣』がちりばめられています。
キルオと同じように青柳にかかわった人たちも彼を信頼し助けようと奔走します。
サークルの仲間
青柳を裏切るような行動をとった森田やカズも最後は青柳を助けようとしました。
晴子も青柳のメモに「だと思った」と付け足すあたりに厚い信頼を感じます。
青柳雅春という男は真面目でちょっと面白味に欠けるが信頼できる男だという事です。
青柳の人柄が彼自身を救ったということは森田の言った『最後の武器』を持っていたのでしょう。
ラストシーン、晴子は娘の七海に頼んで『親指』でボタンを押す見知らぬ人物に『たいへんよくできました』を贈りました。
それは青柳の消せない習慣が自分自身の大切な過去を救ったことになります。
信頼と友情を表す見ごたえのある印象深いシーンでした。
知り合った人たち
キルオや保土ヶ谷や轟煙火の息子など、親しい間柄でもない人たちも青柳の逃亡に協力しました。
彼らは『サークルの仲間』とは違い青柳を信じる要素は希薄だったはずです。
ただ単に興味本位だけでできる事ではありません。
青柳に助けてやりたくなる何かを感じたのではないでしょうか。
中でも元の同僚の岩崎は青柳自身が驚くくらい即座に彼を信じました。
そんな岩崎に特別手痛い『お礼』をしたシーンは心を掴みます。
家族
この作品で青柳の逃亡を助けるのは両親ではなく友人や知り合いです。
血の繋がらない人たちが青柳の何かを感じ信頼して助けるというのがテーマで、両親はただ待ち続けるという役回りでした。
しかしそれこそが深い信頼であり親にしかわからないキーワードで無事を知らせるシーンに意味が生まれるのです。
Golden Slumbers
1969年に発売されたビートルズのアルバム『アビーロード』に収録された曲で、本作品の中でも重要な役割を担いました。
森田は死ぬ前に学生時代を懐かしみ後悔します。
それはカズ同様『帰るべき場所』を持っていながら離れていった自分を悔やんでいるのです。
終盤のマンホールから上がる花火のシーンで斉藤和義によるゴールデンスランバーがかかります。
そのシーンの晴子は森田やカズの思いと共に「故郷に帰る道」を感じているに違いありません。
彼らの帰るべき道の象徴こそ『青柳雅春』だったのでしょう。
自首させる必要性
佐々木は青柳を拘束した後、交番の前で車を止めて青柳に自首するよう勧めます。
『自首』は犯人が特定されてからでは意味がありません。
それなのになぜ自首させようとしたのでしょうか。
オズワルドにされるぞ
アイドルを助けたことのあるヒーローで顔の知れた青柳は犯人に仕立てるにはうってつけでした。