羽住監督にも直接説得に行ったと聞きます。
その甲斐あって、設定を三ケ日から北九州に変更させることに成功したのです。
町並み
しかし、ただ「来てください」と言ってもロケ隊は来てはくれません。
熱意もあったのでしょうが、北九州が今回の『1979年』という時代設定にマッチしたロケーションだったからです。
戦時中の設定や、レトロな雰囲気を必要とするロケで頻繁に使われてきた北九州。
そういったノスタルジックな街並が必要だった本作にはぴったりだったと思われます。
そしてその協力態勢も重要なジャッジポイントでしょう。
北九州フィルムコミッションの協力態勢は日本で最も優秀な団体の一つです。
街中のシーンは駅前の交差点を全面封鎖しての撮影でした。
そんな撮影の許可を取れる場所は日本全国でも数えるほどしかありません。
製作者側としては是非ロケをしたい場所になるのも頷けます。
しかし、元の設定を変えてまで北九州を選ぶというのはすごいですね。
竜王中との戦いに駆け付けた理由
原田先生の家で覚醒した美香子にはやり残したことがありました。
戸畑第三中学男子バレー部員たちに「カッコよかった、最高だったよ」と伝えてやることです。
そのためには、自分を必要としてくれているはずの彼らのもとに行かなければなりませんでした。
迷い苦しみ道を見失いかけている彼らと、もう一度自分を見つめなおす美香子自身のために。
その時の美香子にははっきりと進むべき道が見えています。
そして彼らに教えるべき道もわかっていたのです。
そこに邪心も保身もありません。
あるのはただ彼らバレー部員と過ごした練習の日々の思い出と、その努力を結実させてやることだけでした。
竜王中学のアタックを拾うたびに『おっぱい!』と声を出す彼らの目はいきいきと輝いています。
美香子が来たことによって心が一つになったのでしょう。
あれだけ『おっぱい!』を連呼されるとまるで『青春!』といっているように聞こえてくるから不思議です。
『道程』と『道標ない旅』
挿入歌の中でも永井龍雲の『道標ない旅』は白眉でした。
奮闘むなしく実力差を思い知らされ三中のスローモーションにこの曲が流れるのです。
大いに涙腺を刺激したこの曲は「君が歩けばそこに必ず道はできる」と唄われます。
美香子が原田先生から教わった『道程』も「僕の前に道はない 僕の後ろに道は出来る」が印象に残る名作でした。
この映画が言いたかったのはこれなのです。
美香子は『バカ部』と呼ばれていた彼らに『道』を知る機会を与えられたのでしょうか。
おそらく美香子の思いは伝わっているはずです。
そして彼らを通し多くの人達に伝わっていくでしょう。
去っていく美香子の列車に向かって、平田たちは線路沿いの河原から「ありがとう、おっぱい先生」の文字を広げました。
美香子はその姿を見てますます『教師』の責任とやりがいを感じたに違いありません。